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放送から30分後、棚瀬良介(6番)はようやく動き出した。
今は絶望に打ちひしがれている時ではない、まずは立ち上がらなきゃいけないんだと、やっと気がついたのだっ
た。
放送で呼ばれた死者の名前。
その中に、やはりと言うべきか立川朋彦(5番)と飛田信行(37番)の名前もあった。立川は自分のせいだ。自
分のせいで、寺井晴行(24番)の犠牲になってしまった。
飛田は別に自分が強要したわけではない。自分で勝手に行って、自分で勝手に死んだだけだ。
……だけど、つい先程彼が言っていた通り、彼も一種やる気だったに違いない。その証拠に、マシンガンの音
に、微かに別の単発の銃声も混じっていたように良介は感じていた。
だが、その飛田をも寺井は片付けてしまった。
ましてや、放送前に寺井を説得すると言って駆け出していった徳永泰志(31番)が生き残っているわけが無
い。きっとすぐにでも、マシンガンの音が聴こえる。そしてそれは泰志の最期の時。
彼は2丁の拳銃を持っていた。1つは彼自身に支給された物だとしても、もう1つは一体誰に支給され、奪った
物なのか? そして、その本人もきっと死んでいる。泰志も多分誰かを殺しているのだ。
今、生き残っているクラスメイトの中で、誰かを殺していない生徒は本当に少ないに違いない。もしかすると自分
だけなのかもしれない。
なんで、自分はまだ生き残っているのだろう。
このゲームの開始が告げられた時、真っ先に自分は殺されると思っていた。全員敵だと思っていた。支給され
たのがこの暗視スコープだと分かった時点で、自分は潔く殺されるべき人物だったのだ。
だが、塚本大作(13番)はそんな自分なんかと合流しようと言い、そして潔く命を散らせていった。立川朋彦は
絶望していた時に、冗談を言いながら合流してくれた。そしてそのまま囮となって、儚く消えてしまった。
みんな自分でまいた種なのだ。今、自分の手元にはスミスアンドウエスンがある。だがもうそれを使うことも無
いなと思っていた。
もう全ては、終わってしまったのだ。
カチリ。
すぐ隣で、撃鉄が起こされる音を聴き取った。隣を向くと、思った通り、コルトガバメントを構えた寺井晴行が、
悠々とその場に立っていた。その顔が笑っている。僕も笑った。
「泰志とは出会った?」
「うんにゃ、会ったのか?」
ついこの間まで普通のクラスメイトとして話し合っていた時と同じように話す。
それは全然苦にはならなかった。
「さっき寺井を説得するって向こうに行った。でもなんで僕がここにいるって分かったの?」
すると寺井は左手に握っていた緑色の情報端末機のような物を取り出した。
「探知機、だな。こいつのおかげでお前の位置はわかった」
「そっか。で、僕を殺したらどうする? 泰志を殺しに行くの? あいつ銃を持ってるよ」
「一度に質問するなよ。泰志は最後までとっておく。今度はさっきの放送を信じて灯台にでも向うさ。言っておく
けど、泰志に俺は殺せない。でも俺は泰志を殺せる。簡単な話だ」
もう、寺井は誰にも止められない。寺井の引き金を持つ指に力が入るのを感じた。
最期に一言くらい、言わせてくれよな?
「あのさ、俺達の事、忘れないでくれよ?」
「……わかった」
その返答を脳が認識した瞬間、乾いた爆発音と共に、棚瀬が吹っ飛んだ。後頭部の半分が砕け、白い液体と
赤い血が不思議なマーブリングを施していた。
そして、みんなから愛されていた存在、棚瀬良介も、他の生徒同様、黄泉の国へと旅立っていった。
6番 棚瀬 良介 死亡
【残り6人】
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