参った。本当に、参った。 プログラムだって? ふざけるんじゃねぇよ……! 篠塚晴輝(男子3番)は、道澤とかいう女がそう告げてから、体の振るえが止まらなかった。 学級委員である彼は、なんだかんだいって3年間このクラスの代表だった。面倒なことは嫌いだったが、頼まれたら 嫌とは言えない性格なので、とりあえず簡単に業務はこなしていった。 もともとその才能があったのだろうか。篠塚は国語の文才があった。適当に間に合わせで書いた文章でも、世間に公 開しても恥ずかしくは無い文章であった。お陰で代表者として卒業式の式辞なども任されていたので、随分前からい つもとは違い練りに練った文章を作り上げていたのだ。そして、本来ならば今日は卒業式の予行演習を行う予定だっ たのだ。そこで、自分が一生懸命作った文章を初めて読む予定だったのだ。 それなのに、このプログラムというやつは……。 なんとかして、逃げ出さなければ。 勝算はほとんど皆無だ。だが、やらなければならないのだ。 このまま何もしなければ殺し合いに強制参加させられるだけだ。みんなそんなの嫌だろう? いざとなったら、みんなが手助けしてくれる。 佐藤先生が出て行く。全員の視線が、そう。道澤とかいうあの女も、そして銃を抱えた兵士も、全員が出口の方を見 ている。 こんなチャンスは、二度とない筈だ。 出来るか、自分に? いや、やるんだ。頑張るしかないんだ。 「くおぉぉりゃぁぁああ!!」 立ち上がって、すぐ傍に立っていた兵士に体当たりする。不意を付かれたその兵士は足元がもつれ、簡単に転倒し た。その隙を逃さず、小銃を持つ手を捻り上げて、自分のものとする。道澤が気付いたときには、既に銃口は彼女の 方を向いていた。 上手く行き過ぎていた。なんだ、やれば出来るじゃないか、俺。 「ちょっと……篠塚君ね? その銃で、何をする気かしら?」 「動くなぁ!! ……動くと撃つぞ!!」 近くにいた兵士は後退りを始め、そしてもう1人は小銃を床に置き、両手を上げていた。 ただ、道澤だけは、机に堂々と手を付いたままだった。気に入らない。 「俺達をここから解放しろ。さもないと殺すぞ」 どのみち殺すつもりだったが、まずはここから脱出する方法がわからない。ここが何処なのかもわからないし、データ が少な過ぎる。今は、利用するしかない。 片目だけでクラスメイトの方を見る。全員が、驚いた顔をして自分の方を見ていた。そこで笑ってみる。極度に緊張し ていたが、なんとかいける、大丈夫だと、そう自分に言い聞かせた。 「そうね……やめなさい。これ以上続けると、私は貴方を殺さなければならなくなる。それだけは……、絶対にしたく ないの」 「なんだ、そりゃ? それが銃を向けられてて言う台詞か?!」 ダダダダダッ!! 引き金を絞ると、思ったよりも反動が凄まじかった。後ろにあまり体重をかけていなかったので、耐えることが出来ず に数歩後退する。そして、顔を道澤のいた場所に向ける。そう、そこには道澤の哀れな死体が―― 。 なかった。 何処だ? 何処に行きやがった?? きょろきょろ辺りを見回すと、クラスメイトは唖然として床の方を見ていた。 そう、先程まで机があった場所だ。 「もう、何を言っても無駄のようね」 そこには、道澤が倒れていた。いや、倒れていたのではなく、咄嗟の判断で床に背中から屈んだのだ。 舌打ちをして、今度はそちらに向けてトリガーを引こうとした。だがその前に。 ダァン!! 「あぁぁぁあああああ!!!」 ブレザーから出てきた拳銃、グロック17から瞬時に吐き出された鉛の弾は見事な軌道を描いた。そして、篠塚の右 手中指を弾き飛ばした。衝撃的な痛みに耐え切ることなどとても出来ず、そのまま小銃を落としてしまう。 全て、あっという間の出来事だった。 「仕方ないですね。皆さん、私達に逆らうと、こうなりますので、よく覚えておいて下さい」 愁いを帯びた笑みを浮かべる。そう、それは死者に対する手向け。 それは、俺が殺されるということだろうか。 そんな。 嫌だ。 俺は生きたい。 生きたい。生きたい。 嫌だ死にたくない。 もう一人の兵士が、小銃を自分に向けて構える。 「あ、あ、あぁぁ……!!」 殺 サ レ タ ク ナ イ 。 「いやだぁぁぁぁぁああああああっっっっっっ!!!!!!」 窓を開けて逃げようとしたが、窓は打ち付けられていて開かなかった。ドンドンと拳で殴ったが、傷口が傷むだけだっ た。そう、もう何をしても、どうあがいたって、無駄だったんだ。 でも、逃げたい。 全てを投げ出してしまいたい。 俺 ハ マ ダ 、 死 ニ タ ク ナ イ ! ! ダダダダダダッ!! 「だあぁぁああああああっっっ…………!!!」 諦めたくはなかった。 だから、精一杯抵抗したんだ。 だけど、全て、無駄だったんだ。 男子3番 篠塚 晴輝 死亡 【残り11人】 Prev / Next / Top |