快斗はデイパックを受け取った。

 武器が入っているのだから結構重たいのだとは思って身構えてはいたのだが、案外軽かった。いや、軽すぎた。10
キロ、いや5キロもないかもしれない。
 だが、そんなことはどうでも良かった。今はただ、恵美を追いかければいいだけの話だ。

 入口から外に出ると、廊下が暗い事に気がついた。そして目の前に『右側へ行くこと』という張り紙が壁に貼ってあっ
た。突き当りで左右に別れているのだろう、左側の方には何があるかと思い、そちらを向いてみた。
 すると、おそらく専守防衛軍の兵士だろう、30人以上の人間が詰め寄っている部屋がその先にはあった。勿論その
部屋の明かりは、周りの薄暗い廊下を淡く明滅させていた。



 くそっ!
 これじゃ、奇襲をかけようにも無理じゃないか…!



 そのうちの1人、入口に一番近いところに座っていた兵士と眼があったのを感じて、すぐさま快斗は反対側の通路へ
と走った。そうだ、こんなところでぐずぐずしていたら、次に出てくる朝見由美(女子1番)と遭遇する羽目になる。

 何を隠そう、快斗はまず間違いなく由美はこのゲームに乗ると考えていた。彼女はギャルっぽい風貌をしていて、し
かも援助交際が発覚してつるんでいた長谷美奈子(女子18番)と共に停学処分を喰らった事もある不良っぽい女子
生徒だ。

 そんな愛に餓えた奴が自分達を見たらなんと思うだろうか、嫉妬して攻撃してくるかはたまた。

 しかしふと思った。由美も、自分達と同じように誰かと合流しようと考えているのかもしれない、と。例えば、不良である
にもかかわらずずっと友好関係を続けてきた、しかも出席番号が1番違いの磯貝智佳(女子2番)とか、その可能性もな
いとはいえなかったがしかし。

 今は第一に恵美と合流する事が大切だった。

 出口はすぐにあった。そしてそこの目の前に経っている人物、背丈の低いそれはもう1人しかいない。

「快斗…!」

 出発する時に見せた強い眼ははったりだったのかと思うほど今は蒼白がかっており、すぐに抱きついてきた。
 髪の毛の匂いがくすぐったかった。赤いヘアバンドが鈍く光っていた。

「恵美、行くぞ。ここにいたらすぐにでも朝見が出てきて、遭遇する羽目になるぞ」

「そ、そうだね。い…行こうか…」

 2人が急いで駆けて行った直後、その場所には朝見由美が立っていた。
 舌打ちをして。そして、ふと気がついたようにすぐ傍の茂みに隠れると、何かをじっと待つように屈んでいた。
 勿論、2人とも振り返らなかったからその事には気付きもしなかったが。



 一方走りつづけた快斗は、ふと気付いた。足を止めると、手をつないでいた恵美が振り向いた。

「どうしたの?」

「いや、現在位置を確認した方がいいかなと思ってさ、武器も確認したほうがよさそうだし」

 そう言って、快斗はその草が生い茂っている荒地に腰を落とし、同様に恵美も座らせた。
 その草は背丈が高く、少し屈んだだけで既に周りから2人の姿は見えなくなっていたので、外から見ただけではわか
るまい。少しだけ、安心した。

 快斗は自分のデイパックの中身をあさり、そして何か筒状の物が手に触れたのを感じて、咄嗟にこれが武器だと思
ってそれを引っ張り出した。そして、それをみた瞬間、あっけにとられた。
 付属の紙片を月明かりに照らして読みながら、隣に座っている恵美に笑いかけた。

「はずれだよ、暗視スコープだってさ」

「な…なによそれ?! そんなんで戦えっていうの? 無茶よ!」

「恵美はなんだったんだよ?」

 そう言うと、恵美は携帯ゲームのようなプラスチック製の四角い箱状の物を取り出していた。それにも紙片がついて
いて、そこには名称と使い方らしきものが書き込まれていた。

「あたしの武器は…情報端末機、だって」

「情報端末機? なんだそりゃ? つまり…何ができるんだ?」

 快斗がそう質問すると、恵美はそのまま紙片を読みつづけた。

「えっとね…電源を入れると、現在位置がわかり…また生徒が死亡した場合は、誰が死んだのかを迅速に伝えること
 が出来ます…ちなみに強い衝撃を与えると壊れるので注意、だって」

 そう言われて快斗は渡されたその端末機の電源を入れてみた。

 ぽっと液晶画面が光り、中央に周辺の地図が、エリアで区分されていた。みると、G=2という数字と記号が地図の
上に表示されている。

「ふぅん…あたりなのかはずれなのかよくわからない武器だな。ま、活用しましょうかね」

 そういいつつ、快斗は恵美の頭をなでた。

「大丈夫だ、俺がお前を守ってやる。絶対な」



   【残り68人】


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