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 奈木和之(男子23番)は、相変わらずE=2の大樹の根元に隠れていた。


支給武器である、イングラムM11。この武器の存在を隠し続けるために、彼は友を探そうともせず、そして自らの欲
求も我慢し続けた。
おそらく今回のプログラムで最強の武器であろう。



 自分に支給されて、本当によかったと和之は感じた。



ここに隠れてから放送が流れた。だが、死者はたったの3人。68人もの大所帯のクラスにしては珍しく、まったく人が
死んでないとも言い切れるほど、このクラスのプログラムの進行は遅い。
何故、そのようなことが言い切れるのか。実は彼にはいささか特殊な母がいた。



 キャスターの奈木朱音といえば、大東亜共和国の中でも有名な人物だ。
様々な地方の風習にチャレンジし、ことごとく玉砕。だが決してめげることの無いその姿が人気の、ニュースキャスタ
ーである。『アカネの簡単クッキング』という朝のニュースの特設コーナーも作られたほどだ。
勿論昼間には、立派なニュースを述べることもある。まぁ、昼間に流すニュースといえば芸能人の結婚や不倫、浮気
など家庭の主婦のためのどうでもいいニュースが大半なわけだが。
それが、ある日、和之が風邪を引いて寝込んだ際、昼間にニュースを見てみると、母親がなにか深刻そうな顔をして
ニュースを呼んでいるのだ。当時小学校高学年だった和之は、それが緊急用の臨時ニュースなのだということがわ
かった。


『今年もまた東京都内の学校がプログラムに選ばれました。学校名は都立安達学園3年C組。生徒数は46人でし
た。専守防衛軍の公式発表によりますと、先程午前11時47分に優勝者か決定したとの事です』


ああ、プログラムってやつか。
怖いな、同じ東京都だってさ。僕達も運が悪かったら選ばれるんだってね。


『今回優勝したのは女の子です。こちらが優勝時のVTRになります……』


映像が変わる。下に表示されているテロップに、優勝した女子生徒、と書かれていた。
兵士に抱えられている少女は、元気よくピースサインを出している。血だらけのセーラー服、頬にある生々しい傷、な
にかこの世のものでないような雰囲気が流れていたと、当時の和之は感じ取ったに違いない。

母親が帰ってきたら、プログラムのことを詳しく教えてくれた。
聞くと、母親はどっかのコネかなにかを使って、詳細資料も読ませてもらったらしい。優勝した女の子、に支給された
武器は、武器名は覚えていないけれどもマシンガンの一種。そう、マシンガンを使えば、簡単に優勝できてしまうの
だ。

実際にはそういうわけではないのだが、幼いころに植えつけられた記憶というものは忘れることができないようで、そ
の出来事だけは和之は鮮明に覚えていた。





 そして、今自分の手元にはマシンガンがある。その気になれば、優勝できる代物だ。
すなわち、誰かがこのマシンガンを手にしたとき、それはそのものの優勝を意味する。



 そんなことは駄目だ。殺し合いなんてしていいはずがない。

 このマシンガンは、誰にも使わせない。



「おっかしいなぁ……奈木く〜ん、いるなら返事してよ〜」

ふと、頭上で(というよりも自分が半地下にいるだけだが)声が聞こえた。
体中、電撃を浴びせられたかのように、一気に緊張がほとばしる。

「誰か……いるのか?」

恐る恐る、声を絞り出してみる。実に数時間ぶりの発声だ。
何故、この人物は自分が奈木和之だとわかったのだ? 見えていた? そんな馬鹿な。ここはそう簡単には見えな
い位置に存在しているはずだし、なによりも身体的特徴のない自分を判別できる理由がない。

「あ、奈木君? 奈木君だよね? おにいちゃーん、いたよー」

「え、いたのか? そっちいくよ」



 お兄ちゃん?
 このクラスでそんなあだ名なんてない。いや、例外がある。


 まさか。



「あ、いたいたいた。よっ、奈木」

目の前に突然現れたその人物。砂田利哉(男子14番)と砂田利子(女子8番)。
しばらく唖然としていた和之だが、すぐに言葉は出た。

「ど、どうしてここが?」

「これよ、これ」

質問を発した途端、利子が右手に持っていたものを掲げた。液晶画面があり、なにかの端末のようなものだ。

「これが私の支給武器、ファジタムル7号探知機Ver.1.60で〜す。簡単に言えば探知機。これで奈木君の存在がバッ
チリ見えちゃいました」

「まったくなぁ。出発したときはあんなにおびえていたのに、今だって楽観できる状態じゃないんだぞ?」

目の前の兄弟の間でどうやら話がどんどん進んでしまっているらしい。
これではいけないと、あわてて和之は口を挟んだ。

「あの、さ。つまり、その……何しに来たんだ?」


沈黙。
同時に顔を合わせた砂田兄弟は、次の瞬間同時に笑っていた。流石は年子。


「何しにって、仲間探しに来たに決まってんじゃん」

「そうそう、脱出策を考えるためにはまず仲間が必要だからね」

「「というわけで、一緒に行動してください」」

最後にはぴったりと2人の声が合わさっている。まるでギャグマンガだ。
この2人、漫才コンビを組んでもやっていけるんじゃないか? まぁ、それはさておき。

「あのさ。脱出するつもりなの?」

「ああ。具体的な方法は無いけれども、とりあえずは仲間探しからだと考えてね」



 乗れない。



「そっか。じゃあさ、またの機会にしてくんないかな? 僕は、ずっとここにいるから」

「なんで? 一緒に行かないの、奈木君?」

「うん……僕もやることがあるからさ」

すなわち、マシンガンを誰にも使わせないこと。
考えたのだ。これが無ければ、すくなくとも進行は遅くなる。つまり、それだけ脱出できる生徒も増えるということだ。
まぁ、プランがあるのならね。

「そうか。わかった、ずっとここにいるんだな」

「うん」

「まぁ余計な詮索はしないけれどな、いいか。絶対に脱出させるんだから、死ぬんじゃねぇぞ」

「わかってる」

あえて何も尋問してくれないのは、ありがたかった。これなら、ここの位置を誰かに言うことはないだろう。信じなけれ
ば、とてもじゃないけど生きてなんていけないから。
移動すれば、ましてや人数が多ければそれだけ発見されるのは大きくなる。もっとも、利子の探知機がある限り奇襲
はほとんど皆無だろうが。だがそんな相手にマシンガンを使うのは嫌だったし、ましてや襲われて殺されて、マシンガ
ンを使われるのも嫌だ。

だから選択はただ一つ。動かないこと。

「じゃ、また」

「バイバイ、奈木君。頑張って生きててね」

和之は2人の姿が見えなくなるまでは見届けたが、すぐに大樹の空洞へと戻った。
そして、同じように利哉の武器も何なのか聞き忘れたが、それはまぁ気にしなくてもいいことだ。

 利哉の武器がすさまじいものだったとも知らずに。







   【残り62人】



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