男子33番 雪野 満 死亡。 ディスプレイにそう表示されてから、あっという間に2時間経った。 G=4の民家の中で、秋吉快斗(男子1番)はじっと息を潜めていた。傍らでは湾条恵美(女子34番)がすやすやと 眠りについている。そう、それは決して玄関口にある死体とは違う。生きた人間だ。 恵美が眠る間は、快斗が見張りの役目をする。快斗が休むときはその逆だ。 今、銃声は全く聞こえない。外から漏れてくる紅の光は、まぎれもない夕日。おそらく、まだこの島の中で生き残って いるクラスメイト58人が、この夕日を見つめているのだろう。それほどに、夕日は大きくて、神秘的で、そして恐ろしか ったのだ。 これから、夜が来る。 太陽ではなく、月の光が輝くときが来る。 だが、この家の中には月光は届かない。本当に暗闇、何も見えやしない。何故か今いるリビングには暖炉などという 珍しいものが設置されていたが、それに火を灯すつもりは毛頭無かったし、そもそも火をつける道具がない。暗闇の 中、自分達は早く太陽の光が暖かい朝が来るのを待つばかりだ。 山積みにされた書籍の束をぼんやりと眺めながら、ふとこの島で出会った人物のことを思い出す。一番上に置かれて いる『短編小説集〜夢の輝き〜』という本。これを国語の授業で設置された、読書の時間の時に読んでいた人物だ。 まるで似合わない、と誰もが笑っていたが、それでも彼はこれを読み続けていた。 彼、日高成二(男子28番)は一体今何をしているのだろうか。あの時が、初めて彼と真剣に語り合ったときなのだろ うと、不思議な感覚に捉われながらも、快斗は恵美の支給武器である情報端末機を見つめた。 この端末機がウソをつかない限り、日高はまだこの島のどこかで生きているはずだ。そう、彼が言ったことが正しかっ たのなら、今日高は小学校にいるはずだ。彼の所属する通称『野良犬』と呼ばれるグループに。 望月道弘(男子32番)は、このゲームには参加しなかったのだろうか。だから今までまだ『野良犬』は誰一人として 死んではいないし、日高も安心しながらも望月の監視を続けているのだろう。 ―― 24時間経っても全員無事なら、小学校に来てくれ。 日高はこう言った。あれから12時間、つまりは半分の時間が経った。 彼等はまだ生きている。物言わぬ屍にはまだなっていない。それだけで、快斗は安心することが出来た。 福本五月(女子19番)を殺してしまって苦悩していた彼は、当座の答えを見出していたのだから。 何のことはない。今は生き延びることだ。生きて、生き延びて、福本の死を無駄にしないことだ。今自分がここで悩 み、苦しんだところで、既に福本は死んだ、という結果は残っているのだから、何も始まらないのだ。福本に対して罪 を償うつもりがあるかと聞かれれば、少し迷った挙句、『今はない』と応えよう。福本が死んだから、自分は今ここに在 るのだから。罪の意識があっても、償うつもりはない。不思議なことだが、今はそうとしか言えなかった。 他人の心配をするのなら、自分の心配をしろとよく言われているが、まさにこのゲームはそうなのかもしれない。 自分の守りたいものはとことん守ってやればいい。だが、そのためには犠牲も必要なのだ、と。いちいち悲しむ暇が あったら、今は生き延びることを考えろ。そんなことは後でいくらでも考えればいいのだから。今、自分は何をしなけれ ばならないのか。それだけにしたがって、行動するべきだ。 答えというよりは言い訳にしか聞こえないが、一応これは『答え』だ。 自分のやってしまったことを正当化(曖昧だが)する為の、単なる『答え』だ。 悩むことはない。前へ進もう。 横で眠っている恵美をふと見て、まだ自分が生きていることを快斗は感じた。 紅の光も途切れ、薄暗い静かな部屋の中、コチコチと鳴り響いている時計。 まもなく、3回目の放送の時刻だ。 【残り58人】 Prev / Next / Top |