「泰志……おい、泰志ってば」

 深い眠りについていた筈の意識が浮上していく。目を開けると、自分は木製の机に突っ伏していた。隣の席に 座っている寺井が、自分を起こしてくれたのだと知った。
ふと前を見ると、自分の前に座る時津 優(30番)が、自分の方をじっと見つめていた。

「何だよ? 俺はお前なんかに興味はないぞ」

「なに言ってんだよ? お前、ずっと眠っていたんだぞ。まぁ、その、俺も……だけどさ」

 そういって、その長髪を右手でかきあげていた。
彼、時津はちょっと長髪がかった髪で、まだまだ童顔。まぁ自分も人のことは言えない。その顔は一瞬少女かと 見間違えるほどの美形顔だったが、生憎(というかそれが普通なのだが)男に興味はないらしい。

「なぁ、俺達、何してんだ? 学校に戻ってきたのか?」

 そこで始めて、泰志はそこが教室のような部屋であるということ。
そして、出席番号中に座らせられていることを知った。



 ――一体、なんだ、これは?



「静かにしてろ。他の奴等も起きてる。今お前が騒いだら、全員騒ぎ出すぞ」

 寺井が低い声で囁いた。たしか彼は静かな雰囲気が好きだったような気がした。もっとも、鶏が一羽でも鳴い たら一斉に鳴きだすように、今は下手に騒がない方が賢明なのは確かだ。なにしろ、状況が理解できなさ過ぎ る。
ふと、自分が汗をかいていたのに気付き、首筋をこすった。そして、目を細めた。

「なんだ? コレ」

 そこにあるはずの柔らかい肌の感触はなく、冷ややかな金属の感触がした。はっと気がついて隣の席の寺井 の首を見る。そこにも何か、そう、首輪だ。銀色に鈍く光る首輪がつけられていた。
それがそこにあるとわかった瞬間、息苦しくなった。



 なんだなんだコレ?

 俺たち、みんなワン公にでもなったのか??




その時だった。教室の引き戸式のドアがガラガラッ、と音を立てて開いた。外に立っていたのは若い女。彼女は ジーンズを穿いていて、いい香りが漂っていた。そして、ぎこちない動作で教卓まで行くと、手をついて言った。

「みなさん……お、起きましたか?」

 力の抜けるような声。緊張でもしているのだろうか?

「全員……起きてますか?」

 再度確認。自分が観察したところでは、既に大半の人物が起きていた。まだ机に突っ伏している人物は、1番 左側の1番前、つまり大河幸弘(1番)と、彼と同じくらいお調子者の(名前からそうなのだが)戸田鉄平(33 番)。それからあとは鳥本賢介(42番)くらいだろうか?

「あの、私……先進めたいので、周りの人、起こしてくれますか?」

 いつもなら「はーい、わかりましたー」と元気よく返事をするところだが、この不自然な沈黙の中だ。逆にそんな 軽い発言が出来ないような雰囲気に、教室全体が包まれていた。
結局周囲の生徒が彼等を起こした。
その女性は少し笑みを浮かべて(極度に緊張していたが)、黒板に字を書いていった。

「はい……えーと……私が、新しい担任に、なることに……なりました……“門並増美”といい……ます。宜しく ……ね?」

 極度の緊張のせいで舌が回らないのかはたまた言葉が上手くいえないのか。とにかく、何がなんだかわから なかった。同じことをみんなも感じていたのだろう。

「あの……門並、センセ。これは、一体なんですか?」

 学級委員の玉吉海人(8番)がそれらしく訪ねる。
全員が、答えを待った。

「えーとね……とても言いにくいんだけど。私、初めて担任になったんです。新任教師って言うのね。だから、こ れから一切の私語は禁止。わかった?」

「わかりました……けど、肝心の答えはなんですか?」

「え? あ……ゴメンね。えーと……貴方達は、今年度のプログラムに選ばれました」




 ……え?




「だから……わかってるよね? 友達同士で、殺し合いをしてもらいます」









 空気が、冷めた。
 そう、それは死の舞踏会への、招待状。



【残り42人】





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