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 最初に出発して以来、ずっと隠れつづけてきた者がいた。

彼の名前は戸塚正太郎(34番)。今もなお相変わらずG=6の茂みに隠れつづけていたのだった。支給武器の ガダルカナル専用探知機には、奇跡的に未だ反応はなく、ついうつらうつらと眠りそうになってしまったこともあ る。

「ん……もうそろそろ20人きったかな……」

彼にそう考えさせた要因はどうも放送があってからも立て続けに銃声がしたせいでもあるし、なによりまだあの 不良グループである堤 洋平(17番)と綱嶋裕太(19番)が生き残っているという考えかららしい。まぁ、ありえ ないことは無い。
そういえばもう一つ興味があることがあったな。あの徳永泰志(31番)のグループがほとんど全滅していたっ け。最初の放送で沢山呼ばれていたな。無様だ。


 とにかく、暇だった。


本来この状況で暇になるということはありえない話である。
だが、死にゆくクラスメイトの名前を聞いても、ただ何も感じることは無かった。


 それは、彼が何よりも自分が大切だったから。
 友達なんて代物、いらなかったから。


だが、その静寂がいつまでも続くはずが無い。唐突に、近くで単発の銃声が聞こえた。

「ななな何だぁ?!」

探知機を見ても、反応は無い。ということは、50mの範囲内には誰もいないということだ。

 だが次の瞬間。



 ぱらららら……




別の銃声が聞こえた。
銃撃戦なのか? と思った瞬間、彼の隣に立っていた木の枝がはじけた。



 自分が狙われているのか?



おかしかった。
なんで自分が狙われているのかわからなかった。



 なんで?

 探知機に反応が出ていないのに!



一発、腹部に当たった。つんのめった。痛かった。

「だぁぁ……?! 痛いよぉ!!」


 何故だ? 何故自分がこんな目に遭わなくてはならないのだ?!
 だって、探知機には反応なんて出ていない。それにここは茂みの中だからそう簡単に見つかるはずも無い。
 じゃぁ、なんで弾があたるんだよ!!


 第一自分は生き残るべき存在なのだ。
 死ぬべきは、他の奴等。クラスの中に仲間なんていない。誰が死んでもよかった。


 俺は、まだ死ぬべき人間じゃあないんだ!!



はっと気付いて、自分の見ていた反対側の方を見た。
その先に、僅かに茂みの割けている向こうの部分に、人の頭が見えた気がした。



 あいつは……?!



その人物と、目があったような気がした。

それが引き金となり、マシンガンから吐き出される数十発の弾が確実に正太郎の腹に風穴を開け、正太郎が 倒れる頃には既に彼は絶命していた。

彼は過ちを犯していた。

それは、たかだか50mの距離が離れているだけで安心しきってはいけないということ。そして、別の種類の銃 声が聞こえただけで銃撃戦だ、自分は関係ないのだと思ってしまったことである。

最初の1発はコルトガバメントで最小限の力で勝とうとしたもの。だがその距離は遠く、仕方なくアラバイダ9ミ リ・サブマシンガンを使用したというだけのこと。



 寺井晴行(24番)は、身を屈めたまま移動し、正太郎の死体を見ると、探知機を手にとってその場から去って いった。



  34番 戸塚 正太郎  死亡



【残り18人】




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