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 玉吉海人(8番)は、ふと立ち止まった。
時計を見た。1時5分前……もう10分くらい走っていたのか……。

実は彼こそが、津崎 修(16番)のもとから逃げてきた張本人だった。

そうだ、彼は見たのだ。津崎が長明晴喜(11番)を撃ち殺し、そして近づいてきた棚瀬良介(6番)と塚本大作 (13番)を撃ったところを、この眼で、はっきりと、見たのだ。

「くそっ……! なんだよ! 僕のクラスが……メチャクチャだ……!」

学級委員、玉吉海人。2年生の後半から、ずっとこの仕事をやっていた彼は、クラスからの人望も高かったとい える。



 そりゃぁ、最初の方は失敗もしたさ。

 でもさ、僕……頑張ったよ……なのに……!



そして少しだけ皆から疎外されていた理由も、少しだけわかったつもりだった。全てにおいて自己中心。自分が まとめているからといって自分のクラスではない。だが、認めない。つまり頑固者なのだ。

「ところで……ここ、何処だろ?」

彼は必死に走って逃げた。地図はデイパックの中だったから、ろくに位置も確認していなかった。
辺りには何も見えない。海岸線かといえば、海岸線だった。崖の。
ここから突き落とされたらひとたまりも無いな、と思い、よく見ると似たような地形を通過したことがあることに気 がついた。まぁ、当座ここにいても大丈夫だろうと。



 彼は、出発してからすぐに西へ向った。そして海岸線を登っていくと、気がついたら崖になっていた。
その地形と、よく似ていたのである。

「……ってことは、C=2あたりってことかな」

念の為、コンパスを出してみる。
針が赤い方を示しているのは、海側だった。



 やっぱり、北が崖ってことは、会場の北側の方面ってことだな。

 最初の方で通った部分だ。大丈夫なはずだ。少なくとも、禁止エリアにはかかっていないはずだ。



「よし……大丈夫」

安心した時だった。




 ピ――ッ。




どこかで聞いた事のあるような音が、彼の耳に響いていた。
そう、それははるか以前、分校の中にいたときに聞いた、死の宣告。

最初は何の音かと思っていた彼の疑惑の念が、ぎっと強張った顔に変化する。



 まさか、まさか……!

 いや、そんなはずはない……だって、ここはC=2なんだから……!!



突然、彼の耳にドンッというくもぐった爆発音が聞こえた。それはなにか銃声のような、しかしそれにしては随分 と音が低いような感じがした。
同時に視界が真っ赤に染まり、次の瞬間、視界が白く弾けた。


 彼がC=2だと思っていた場所は、本当はB=4だった。つまり、午後1時から禁止エリアになる場所。
咽元にばっくり大きな穴をあけ、そして凄まじい量の血を出した彼が生きているはずはなく、ゆっくりと崖から海 へ落ちていった。
首が引きちぎれなかった分、手西俊介(23番)よりはマシだったのかもしれない。


 どちらにしろ、彼には関係の無い話だったが。


ちなみに、彼に支給されていた赤外線スコープが、分校から発せられた電波をキャッチできるというある意味最 強の代物だということは、当座誰も知らなかったに違いない。



  8番 玉吉 海人  死亡



【残り19人】




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