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 月明かりに照らされた夜の遊歩道を、徳永泰志(31番)は悠々と歩いていた。

今、彼は手にはカジュアル2000・オートマチックを、ズボンにはハイスタンダード22口径2連発デリンジャー 差し込んでいたため、幾分余裕が出てきたのだともいえる。
一時はクラス全員を皆殺しにしようと考えていた自分、時津 優(30番)の前ではそのようなことが考えることも 出来なかった。でも、それでよかったのかもしれない。

彼が息を引き取ってから、泰志はゆっくりと歩いていた。最初はその突然の出来事に狂ったように走っていた が、よく落ち着いて冷静に判断すれば、それは馬鹿な事であるとわかった。
今、自分にできること、それは少しでも長く生き続ける事だ。時津が、自分を守ってくれた。つまり、時津の存在 が無かったらとっくに自分という存在は消滅していたに違いないのだ。だが、今は立場が逆転し、既に時津がこ の世に存在していないことになっている。

だから今自分が生きているということを、大切に思わなくてはならない。
もう、決して自分から殺そうとは考えない。自分から大切な命を奪いにいったりはしない。
そしてこの世に在り続けること、それが今の泰志にとって、時津にしてやれる数少ないうちの供養のひとつだっ た。彼の意思を引き継ぐ、そうしなければ、彼がこの世に存在していた意義が無い、自分がその心を忘れてし まった瞬間、時津優は本当に死んでしまったことになると思ったのだ。


 ガサッ……!


「あ、泰志……!」

突然隣の茂みが割れて、そこから1人の人物が顔を覗かせていた。
棚瀬良介(6番)だった。

「棚瀬……まだ生き残っていたのか。大丈夫か? 怪我、してないか?」

そう言ってから泰志は、良介の二の腕にバンダナが巻かれていることに気がついた。そのバンダナが赤黒く染 まっているように見えた。月明かりのおかげだ。今は先刻の夕立の面影も無く、雲が静かに流れている。

「左腕を撃たれただけ。僕は全然平気なんだ。だけど……」

「だけど?」

「立川と一緒にいて、襲われたんだ。多分もう、あいつは……」

 一瞬の沈黙。
つまり、立川も同じように、既にこの世から消滅してしまっているのだろう。


 彼の生きる意義は、何か?


だが、それよりも重要なことがあった。

「襲ってきたのは……誰だ?」

「……寺井、晴行」

その重たい口から発せられた名。
それは随分と懐かしい名前で、そしてグループで唯一生き残っている人物。

「今……なんつった?」

だから信じられなかった。



 何故? 寺井が?

 ……嘘だろ?



ああそうだ、彼もかつての自分と同じように狂っているに違いない。だからこそ恐怖に駆られ、クラスメイトに襲い 掛かっているに違いない。


 彼を、止めなくては。


「寺井だよ、泰志。信じられなくても、それが真実なんだ」

「寺井は……何処にいる?!」

「駄目だよ……! 飛田もそう言って寺井の所へ行った。そして……聞いただろ? あの凄い銃撃戦を。多分、 もう飛田も死んでいるんだ……! 僕のせいでこれ以上死人を増やしたくないんだ!」

次の瞬間、泰志は思い切り良介を殴っていた。
小柄な良介は簡単に吹っ飛び、地面に叩きつけられた。

「そんなの関係ねぇよ!! 俺はあいつを止める。お前の来た方向に進んでいけばいいんだよな?」

「どうなったって……知らないよ」

これでたとえ自分が殺されても、悔いは無い。


 泰志は良介の忠告を無視し、漆黒の森林の中へ入っていった。
 時刻は間もなく、日付の変わる時刻となろうとしていた。



【残り7人】





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