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 突然の来訪者を迎えてくれたのは、二人組の男子だった。
 どちらも野球部に所属している、安田勉(男子21番)と久保正明(男子6番)。

 話を聞くと、安田がまずこちらに潜入したらしい。で、そのあとたまたま通りがかった久保を見つけて、この中に引っ
張り込んで無理矢理合流したとのことだ。そういえば、うちのクラスにはあと一人野球部がいる。須藤元(男子9番)
がそうだったはずだ。しかし、聞いてみると、合流はしたいが、まだ見かけてないとのこと。だからといって、この戦場
にわざわざ出向いてまで探そうとは思っていないらしい。

「あとは……鈴木とも一緒にいたかったんだけどね」

そして、野球部ではないけれど、なにかと仲が良くていつもつるんでいたらしい鈴木努(男子8番)。彼の死は、最初
の放送で告げられているのだ。
むしろ須藤よりも、鈴木と共に行動がしたかったんじゃないんだろうか。

「まぁ、要するに俺がオジャマ虫だってことはよくわかった」

「い、いや。高原、そんなことはないよ」

「どちらにせよお前らには感謝しないといけないからな。俺の命の恩人だよ」

安田が、慌てて俺をなだめてきた。が、俺とはあまり深い交流も無かったし、正直な気持ちはわからない。
まぁ、せっかく倉庫とはいえ屋根のある場所に入り込むことが出来たんだ。少しくらいは、休んでも構わないだろう。

「ところで、高原さ。誰に追われてたんだ? その辺、まだ聞いてないんだけど」

久保が、そう問いかけてくる。確かに、俺はまだその辺りについて何も情報を提供していない。情報はこの試合にお
いてなによりも重要なもの。今のうちに交換できるものは交換しておいて構わないだろう。
そして、思い出す。あの、折原庸一の最期を。あまりにも達観しすぎていた、あいつの死を。

 悔しかった。あまり話したことが無かったけれど、あいつとはもう少し一緒にいたかった。
 今更悔やんだところで、どうしようもないことはわかってはいたけれども。

「目黒だ。あいつ、なんかとんでもなくゴツイ銃を持ってた」

「目黒さんが? てことは、目黒さんはこの戦いに乗ったってことか」

「だろうな。遠目に見たからわからないけど、あいつ怪我してたみたいだった。もしかしたら、既に何戦か他のやつらと
 交えていたのかもしれない」

 安田と久保が、顔を見合わせている。なにか、心当たりがあるのかもしれない。
 気になるので、聞いてみた。

「いやね。実は……浜田の死体が玄関に転がっていたんだ。顔が潰されてて、酷かったんだけどさ」

「浜田が……?」

 浜田篤(男子18番)。恐らくうちのクラスでは一番やかましくて、だけどみんなの人気者だった奴。あいつが最初の
放送で名前を呼ばれたときは、それは驚かされたものだが。まさか出発直後に死亡していたとは。
そこまで聞いて、俺は地図を取り出した。地図が見たかったわけじゃない。そこに印刷されている、名簿が見たかっ
たんだ。
そして、浜田篤が出発する直前に、目黒幸美の名前を確認する。

「なるほど、そういうことか」

「うん……多分、浜田は目黒さんに殺されたんだと思う」

納得できる。あの銃は反則級だ。あんなものでいきなりぶちかまされたら、流石の浜田だって太刀打ちできなかった
だろう。仕方ない。あいつなら、きっと面白いことを考えてくれたと思うのだが。

「じゃ、目黒はこれで少なくとも二人を殺害したことになるな」

「二人?」

俺は、高台で折原庸一と合流したこと。そして直後に現れた目黒によって、折原が犠牲になったことを二人に説明す
る。二人は、苦渋の顔を浮かべていた。

「そんなのって……」

「まぁ、とりあえずこれで、完全に目黒はクロだ。あいつには気をつけたほうがいい。目ぇ合わせただけでぶちかまさ
 れるぞ。ま、それに対抗できる武器を持っているってんなら話は別だけどな」

またしても二人は顔を見合わせる。だが、あまり良い印象はもてない。
さては、二人ともあまり良い武器じゃなかったということか。

「ちなみに俺に支給された武器は砲丸だった。重たいからその辺に捨てちまったけどな」

「そっか。僕はキックボード。久保は閃光弾が支給されたんだけど……ちょっと心許ないよね」

最近はやりのキックボードか。狭い路地もそれ一台ですいすい進める。移動には適しているかもしれないが、こいつら
がここに隠れている以上、なんの意味も成さないのは明らかだ。
そして、閃光弾。目潰しに使える程度で、殺傷能力はゼロ。まぁ、逃げるにはうってつけかもしれない。どちらも逃走
するためならバッチリの支給武器なんだがな。いや、武器か?

 そこで、妙案が浮かんだ。折原先生直伝だ。

「あのさ。お前ら、この建物はもう調べつくしたのか?」

二人はキョトンとして、また顔を見合わせた。お前らはコンビを組んで漫才師にでもなったほうがいい。受けるぞ。
そして、二人仲良く首を振る。案の定だ。

「じゃ、この倉庫を今から徹底的に調べてみよう。なにか、役に立つものがあるかもしれない。赤外線探知機とか、よ
 くわかんねぇけど凄そうなもんが眠ってるかもしんないだろ?」

「それは……そうだね」

「じゃ、三人いるから一人は見張り。あとの二人でちょっとずつ倉庫の中を探索してみる。どうせやること無くて暇なん
 だし、いいだろ。な」

俺はそう促して、倉庫へと足を踏み入れた。そこに広がっているゴチャゴチャした塊は、なんだかとても宝の山に見え
て仕方が無い。いい暇つぶしには、なるかもしれない。

「よっしゃ、じゃあ、探索してみっか」


 そう。この倉庫は、鉱山用のもの。
 まさかあんなものが眠っているだなんて。その時の俺は、思いつきもしなかった。


 俺は折原にはなれない。
 だけど、折原の真似事だったら、いくらでもやってみせる。



  【残り30人】





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