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 H=8、会場端。
 午前7時30分、古城有里(女子5番)による、一連の犯行。


 私は、しばらく歩いてました。
 迫川裕(男子17番)を殺害して、私がいた場所が早速禁止エリアに指定されて。

 実際にこの殺し合いに積極的になろうと思ったところで、すぐに生徒が目の前に現れるわけではありません。多くの
生徒はこの会場のどこかに潜んでいるのでしょう。そうやすやすと外を歩いている生徒が少ないのは当たり前なので
す。
そして、歩き始めてから数時間、ようやく道が途絶えました。この先に見えているのは、金網で囲まれた柵だけです。
恐らく、出発前に門並と名乗る教官が説明したとおり、これが会場の内と外を分ける仕切り。これを乗り越えれば首
輪を爆破される。勿論、超えようとしてその金網に手をかけようものなら、高圧電流が流されているのだから感電する
でしょう。とてもそれは厳しいものに違いありません。最悪、感電死することも考えられます。特にこの先はそれなりに
急な斜面。間違って転がり落ちたら、そのまま柵に激突してしまうことも考えられます。それだけは、特に細心の注意
を払わなければならないでしょう。

 さて、ここから私はどうするべきなのでしょうか。もと来た道を引き返して、また闇雲に生徒を探せばよいのでしょう
か。でも、所詮そんなことをしたって、結果は同じような気がします。無駄に体力を消耗するだけで終わってしまうかも
しれません。そんなのは、もったいなさ過ぎると思うのです。さて、どうするべきでしょうか。
ふと、辺りを見回すと、少し手前に民家が建っているのが見えました。そういえば通り過ぎたような気がします。この
エリアに唯一存在する、最果ての民家。もしかしたら、そこには誰かが潜んでいるかもしれません。いや、なんとな
く、この中に誰かいる。そんな気がしてならないのです。ここは最果て。私と同じように行き止まりまで来て、どうしよう
もなくなってこの民家に潜入する。そういう考えを持つ生徒がいたとしても、別に不思議ではないでしょう。
私は、その民家に入り込んでみようと思いました。常に意識レベルを最大にしていれば、多分平気でしょう。いきなり
襲い掛かられても、誰かがいると決め付けていれば、自動的に体が反応すると思うのです。私にはツインナイフがあ
ります。Cz75だってあります。武器による過信は禁物だといいますが、信用することは大切だと思うのです。

 民家の前に立ちました。玄関扉に手をやっても、やはり鍵はかかっていました。まぁ、当然でしょう。私は脇にあった
窓ガラスを、拳銃で叩き割りました。そして、出来た穴に手を突っ込んで、鍵を開けます。窓が開いたので、しばらくそ
のまま待ってみました。中に誰かがいれば、確認しに来ると思ったからです。でも、少なくとも相手は顔を見せません
でした。当然でしょう。私は誰かが顔を覗かせた瞬間、すぐに飛び掛っていたでしょうから。だから、もし誰かが潜んで
いたとしたら、こちらが来るのを待っているはず。どこかに隠れていて、襲い掛かってくるということです。
若干窓ガラスを割ったときの音が大きすぎたことについては反省します。今度からは、きちんとガムテープで目を張っ
てから割ることにしようと思いました。
私は窓から中に進入します。中はひんやりとしていて、物音一つしません。慎重に歩を進めていきます。廊下の突き
当りがリビングになっているのでしょう。敵はリビングに隠れているか、あるいはその途中にある階段か、洗面所か、
あるいは化粧室か。
何事も無く廊下を抜けて、少しだけ油断しそうになって。ちょうどいいタイミングで、『それ』は現れました。

「…………っ!」

 フローリングの床を勢いよく蹴りだす音。私がリビングに入った瞬間に、いきなり体当たりをくらわせようとしたその
陰に向けて、私は瞬時に回し蹴りを食らわせました。われながら綺麗な弧を描けたと思います。しかし、それは相手
の体を捉えることは出来ませんでした。するっと一回転をして、もとの位置に戻ってくる右足。私は息を落ち着かせ
て、その相手、西野彩奈(女子13番)を見据えます。彼女は興奮した顔をしていて、両手で切れ味の鋭そうなブッシ
ュナイフを握っていました。

「古城……!」

「…………」

彼女も、恐らくこの殺し合いに積極的ではないにしろ参加する方針だったのでしょう。でなければ、相手がわかってい
ないのに殺そうとなんてしません。私は、鞘からツインナイフを取り出して、両手で構えました。彼女のことはよくわか
りませんが、少なくとも私の蹴りをかわしたのです。それ相応の身体能力は持ち合わせているとみて間違いないでし
ょう。
彼女が、再び突っ込んできました。大きな振りは、当たればこそ致命傷ですが、それだけ隙も大きい。私は片方のナ
イフでそれを受け止め、流れるようにもう片方のナイフで彼女の右腕をざっくりと抉ります。肉が断ち切られる感触とと
もに、生暖かいものが私の左手を染めます。

「くそっ……!」

攻撃的な目をした彼女は、下から切り上げてきました。私は咄嗟に足でそれを蹴り上げます。両の手では反応できな
い。ちょっと卑怯かもしれませんが、その勢いで彼女の右手からブッシュナイフは零れ落ちました。傷つけた右腕で
は、しっかりと握り締めることが出来なかったのでしょう。
私は体勢を整えて、再度彼女と対峙します。ツインナイフをこぼさないように、しっかりと握って。

「……おや、もう来ないのですか?」

だけど、なかなか彼女は来ません。どうやら、完全に戦意を喪失してしまったようです。あの男とは違って、少しは張
り合えるかと思ったのに、なんともつまらないですね。
だけど、彼女も奮闘したと思います。だから、早く楽にしてあげましょう。これ以上、彼女の困った顔を見たくはないの
ですから。

「……わかりました。それでは」

と、唐突に彼女は踵を返して駆け出しました。まさかの敵前逃亡です。これにはびっくりです。戦うなら、決着がつくま
で戦って欲しいものですが。素直に負けを認めて死ねばいいのに。

 逃がしませんよ。

私も一気に加速をつけてあとを追いかけます。ツインナイフをしまって、拳銃に持ち替えて。
玄関から外に出ると、彼女はあろうことか行き止まりの方向に進んでいきました。混乱してて、方向感覚も失ってしま
ったのでしょうか。そんな彼女の背中に向けて、私は一発、発砲します。無抵抗の彼女の背中を撃ち抜くのには、少
しだけ心が痛みましたが、これはルール無用の殺し合い。そんなことを言っていられる余裕はないのです。
彼女が、よろけました。私は休むことなくそのあとを追いかけます。きちんと、確実に仕留めなくてはならないのです。
あと少しで彼女に追いつける。そう、思ったときでした。
彼女がふらふらとよろけました。背中を撃たれたのです。当然、致命傷に違いない。もう、体を制御する力も残されて
いなかったのでしょう。そして、彼女は地面に転がりました。それは、先程私が危険だと判断した、斜面。彼女はどん
どんと転がり落ちていきます。


 そして。
 金網に触れた瞬間。


「ぎゃああああ!!」

 断末魔。
 そう、言えばよかったのでしょうか。

バリバリと鈍い音が聞こえ、その直後に、ドンという爆発音が聞こえました。何が起きたのか把握できずに、私は彼
女を観察すると、なんと首から先が消えてなくなっていました。
なるほど、高電圧が体内を駆け巡り、それが首輪の暴発を招いた、そういうことですね。なんともむごい死に方です。
素直に私に殺されていたほうが、何倍も楽に死ねたというのに。

「……ごめんなさい」

もっと、早く始末してあげられれば。堂々とナイフ同士で対峙しないで、銃で最初から殺してあげれば。今更悔やんだ
ところで、どうしようもないことなのですが。
もう少し、彼女の意見を聞いてみればよかったですね。


 楽に、死にたいか。
 それとも、苦しんで、死にたいか。





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