「それでは、説明をしたいと思います」

 司の隣では、理沙が苦しみながら座っていた。その体が小刻みに揺れている事が確認できたのは、やはりすぐ隣
に座っていたからであろう。その理由が傷が痛むからなのか、はたまたミヤビちゃんが殺されてしまったからなのか
は不明ではあったが。

「ルールは先程も説明した通り、貴方達にはこれから殺し合いをしてもらいます。特に反則はありません。えーとね、
今みんながいる場所、これは島です。一応東京都に位置してはいますが、本島からは結構離れた場所にある小さな
島です。周囲は大体10kmくらいで、勿論島の人たちには出て行ってもらいました。それから電気・水道・ガスは通っ
ていません。電話もつながりませんよ」

つまり、自分達は船か何かでここまで連れてこられたのだろう。島の名前は言ってはくれなかったが、多分東京都に
位置しているという限りから、南の諸島のどれかの島だということになる。
となると脱出は……無理だろうな。なんせ泳いで帰ることは不可能だし、きっと政府はその対策を立ててあるに違い
ない。

「それで、ちょっと重要な事をいいますから、良く聞いてくださいね。今、貴方達の首につけられているものに注目して
下さい」

司は改めて、自分の首についているそのひんやりとした感触を確かめ、続いて理沙にもついているそれを見た。




 銀色の、首輪。




「はーい、首輪がついていますね。それはみなさんの為にファジタムル社がこの共和国戦闘実験台68番ブログラム
謹製用として製作してくれた物です。対ショック製、完全防水で、絶対に外す事が出来ません。この首輪はみんなの
位置がわかるようになっていて、またみんなが生きているか死んでいるかも把握してくれます。そして――

そう言うと、道澤は教卓の下から大きな紙を取り出して、丁寧に丸められたそれをこれまた取り付けたのだろう、ホワ
イトボードに磁石で貼り付けていた。
そこには、地図が書き込まれていた。その上から網目状に黒い太線が引かれている。

「これが島の地図です。それから、みんな気になるよねぇ、この梯子状の黒い実線。これが……まぁなんていうのか
な、エリアという形で区分されています。上に書いてあるのが1から10までの数字、横で区分けされているのがアル
ファベットのAからJとなっていて、上から順にA=1、A=2という感じで読んでいくことになっています。ちなみに、こ
こ、中学校なんだけど、ここはエリアF=4に位置しています。この大きな丸印がそれね」

たしかに、丸い物が見えるような気もする。
とりあえず、島の形だけは覚えておかなくてはならない。まさかとは思うが、これだけの大人数、もしかするとやる気
になる奴もいるかもしれない。彼らから逃げる為にも、地図を頭に叩き込んだほうがいいだろう。

そこまで考えて、ふと司は後ろに座っている唐津洋介(男子8番)を意識した。自分はこいつにいままで一度も勝てた
ことがない。そして、もう勝負できるのは、これが最後になるかもしれないのだ、いや、間違いなく最後なのだ。

「はいはい。いいですか? それでね、この島には貴方達以外には誰もいませんから、自由に使って構いません。今
は夜ですから、家の中にもぐりこんで作戦を立てても結構です。……がしかし! みんなが隠れていてはゲームが進
行してくれません。だから、私達は禁止エリアというルールを設けました」


 彼女は、これをゲームだと言った。
 ゲーム……なんだな?


司の眼には、ある決意が固められていたが、それは隣に座っている理沙にも、わかりようはなかった。

「禁止エリアを説明する前に、一日4回、0時と6時に私が全島放送を流します。それだけは覚えておいてね。それ
で、その時に何時からこのエリアは危ないぞってみんなにお知らせするんですね。もしもそのエリアにいたら、すぐに
他のエリアに避難して下さい。なんでかっていうと……そこで先程説明した首輪が関与してきます。その首輪には実
は……爆弾が仕掛けられています」

その言葉を聞いた瞬間、それまで首輪をいじっていた連中が一斉に手を引いた。同時に室内をどよめきが走る。
それを見た道澤は納得したのか、再び説明をはじめた。

「もし規定時間内にも生存者がそのエリアにとどまっていた場合、爆破前に警告音を出します。そして時間になった
途端、ボンッ! とみんなの首が弾けますから、そんなことのないように、注意して下さい。無理に外そうとしても爆発
しますから、絶対にそんなことはしないようにね」

辺りは静まり返っている。
ただ、これはなにかの間違いじゃないのかと、夢なんだと思っているのだろう。

「ちなみに、禁止エリアは2時間ごとに1つ増えますが、この中学校のあるエリアは別です。みんなが出発してから2
0分後、20分後に禁止エリアになりますから、注意してくださいね。そうですね……200mも走れば十分でしょうね」





 それは、遠い世界での話のようだった。
 もう、脱出など不可能なのだと、思い知らされていた。




 決心をした、司を除いては。







   【残り68人】



 Prev / Next / Top