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 F=6、矢代賃貸マンション。一日目、午前7時45分。
 銃声がしてから、40分弱経過。


「ねぇ、やっぱさ……。あたしたちって、死んじゃうんだよね」

唐突に、八木 雫(女子31番)が言い出した。
F=6に位置する島の規模にしてはわりと大きめのマンションの203号室の一室に、彼女たち4人はいた。あの、分
校の前でなんとか合流に成功した、保坂直美(女子21番)を筆頭とする4人だ。

「なにいいだすのよ、雫。縁起でもないこと言わないで、なんとかここから逃げ出す方法を考えようよ、ね?」

女子委員長である役割を担ってなのか、直美はすかさずその話題をやめようとした。
直美自身わかってはいるのだ。どのような手を尽くそうとも、このプログラムから逃れることなど出来ないということを。
ただ、このままの流れで行くと、多分仲のいい4人でも、きっと滅茶苦茶になってしまう。それだけは、なんとしても止
めなければならない。それが、私の役目なんだ、と。
同じことを考えているのか、幼いころから友達だった脇坂真由美(女子33番)が言い出した。

「そうよ、直美の言うとおり。今は死ぬことなんか考えている時じゃないの。生きることを考えなくちゃ」

真由美は、最後から2番目に出発した。そのおかげで余裕で呼びかけることも出来たし、真由美も何の迷いもなく私
たちと行動を共にすることを決めてくれたのだった。

たしかに、真由美は中学生になってから背がとても伸びた。体つきも女子なのにずっしりしてきて、しばしば男子から
からかいを受けていたのだ。(そう、たとえばあの『野良犬』軍団の金城 光(男子9番)とかだ。お前のほうがもっちり
しているっつーの)だけど、真由美は女であることを誇りに思っていた。だから髪を伸ばしたし、ペンダントもつけるよう
になった。ただ、正直それでも男子に間違えられても仕方ないとは内心思っている。
でも、真由美は真由美だ。かけがえのない、友達なんだ。その彼女を、体つきで判断するような奴らは、別に彼女の
ことを好こうなんて思わなくていい。そんな馬鹿は、放っておけばいいんだ。

「そうだよ、真由美が正しい。なにも今、わざわざそんなこと考えなくても……」

「考えたくないよ。でも……死んじゃったじゃん、怜奈」

実室久美(女子28番)の発言を遮るように、再び雫が言った。
瞬間、その場全員の体が固まった。2時間は経っていないが、それくらい前に放送された内容。死亡した生徒の名前
で呼ばれていた名前。彼女の名前、湯本怜奈(女子32番)。
本当は彼女も共に行動しようと誘う予定だったのだ。だが彼女、怜奈は合流の話を持ちかける前に、あの建物から走
り去ってしまった。大声を出すのは危険だし、何より目立つ。だから彼女を止めるような真似はしなかったし、彼女と
の合流もあきらめた。ただ、あまり仲がいいとはいえなかった、それだけの理由で。
それは私のせいだ。まさか、あの姿が最期になるなんて、思ってもいなかった。
その点真由美はいささか気が楽なのかもしれない。真由美は怜奈よりも遅く出発したのだから。勿論、真由美も怜奈
の出発前の行動は気になっていたらしい。デイパックをひったくるように出て行って、呻き声を出しながらかけて行った
という。

既に事は済んでしまったのだ。怜奈は死んでしまった。
でも、そのことをひきずっていたら、自分たちも死んでしまうのだ。そう、多分、怜奈を殺したクラスメイトに。

「今は、必死に生き延びることだけを考えよう。これが、プログラムなんだ」

沈黙を破ったのは、真由美だった。
その言葉を最後に、私たちは再び黙ることとなった。



 あたりは、鳥の鳴き声も聞こえないほど、静かだった。









 これが、プログラムなんだ。









 真由美の言葉が、直美の心の中で響き渡った。







   【残り64人】



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