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 12時7分。G=4、民家。
 島に一発の銃声が、静かに響き渡った。

「きゃ……! 今の、銃声、よね?」

「……ああ」

恵美の言葉に、快斗は感情を込めずに呟いた。
なんだか、すごい無気力だった。もう少し難しく言えば、鬱状態ということになる。


 今から約2時間前に、不慮の事故とはいえ、殺してしまった女子生徒。福本五月(女子19番)は、今でも玄関口に
横たわっている。直視なんてできなかった。
気がつけば死んでいた福本。その腹部からゆっくりと流れ続けたおびただしい量の血液。それは自分のズボンに、ブ
レザーに、少しだけれども、ついた。福本の虚ろな目。どこを見ているというわけでもない。ただ、そこに瞳があるだけ
のような、決して焦点の合わさることのない目。

 何もかも、恐ろしかった。

それは現実にプログラムというものが起こっているのだということを、嫌でも思い知らされた。担任のミヤビが死体とな
って晒された時も、それはなんだか作り物の玩具のようで、信じることなんて出来なかった。
でも、今は違う。つい先程まで、自分や恵美を殺そうとした福本が、今ではもう動かない。二度と、動くことなどないの
だ。自分の手によって、福本は死んでしまったのだ。


 そう、自分は人殺しなのだ。
 絶対にゲームになんか乗らないとか言っておきながら、自分は同じクラスメイトを殺してしまった。

 いや、殺すつもりなんてなかった。あいつが襲ってきたから……。

 駄目だ駄目だ。人に罪を擦り付けるなんて、しかも死んだ人間に責任を押し付けるなんて、なんて自分は最低な人
間なんだ。





 ああ、なんて、俺は――





「快斗っ!!」

唐突に恵美に呼ばれて、はっとした。
恵美が、端末機を自分の方に向けている。そこに表示されている、赤い、文字。

「成田さんが、死んでる」

「うん……。多分、今の銃声のせいで、死んだんだと思うの」

「また、死んだのか? これで、もう残りは……」

「60人。それより快斗、大丈夫? 顔色悪いよ」

恵美は、心配そうな顔をして見せている。
だが、快斗にはすべてがわかっていた。恵美は、無理をしているのだと。俺が落ち込んでいる理由を知っている。だ
から恵美は、恵美なりに励まそうと努力しているのだろう。

 でも。


「お前こそ、大丈夫なのかよ。こんな、血の匂いがしている家で」

「……やっぱり、辛いんだね? 福本さん、死んじゃったから」

「俺が殺したんだ。俺のせいで、福本さんは、死んじゃったんだ」

そう、福本が死んだのは自分のせい。正当防衛? そんなの、後からつけたいかにも自分は悪くない的ないいわけ
に他ならない。だって、自分はもう現に殺してしまったのだから。

 苦しい。よくわからないけれど、苦しいんだ。

「快斗、しっかりしてよ。言ったじゃない、恵美は、俺が絶対に守るんだ、って」

「少し、黙っててくれ。俺、気持ちの整理ついてないんだ」

こんな台詞、言いたくない。言ったところで、恵美を傷つけるだけだ。
じゃあ、なんで俺はこの台詞を言ってしまったんだ?

「そっ…か。ごめんね、快斗」

そうか、俺は、このやりきれない怒りを恵美にぶつけているんだ。
俺は、罪深い人間だ。救いようのない、人間だ。

「でも、これだけは言わせて」

「ん……」

「私の命、守ってくれて、ありがとう」


 体の熱が急速に冷えていく。
 ああ、これって、今流行の癒し効果って奴かな。





 すまない、恵美。心配かけて、ゴメン。
 でも、俺。まだ、悩み続けなきゃならないんだ。



 簡単に答えなんて、出ないと思うけれども、もう少しだけ、時間を、ください。







   【残り60人】



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