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 エリアB=5、ホテル矢代。
 1階中央ホール奥、医務室内にて。

「こんなもんでいいのかなぁ……」

辺見 彩(女子20番)は、きつく巻いた包帯をテーピングで固定し、そっと手を離してみた。そして包帯がずれ落ちな
いのを確認して、ほぉっ、と息をついた。

「これで大丈夫?」

そう訪ねる先には、緑色にビニール加工された椅子に座る少女、伊達佐織(女子10番)がいる。1時間ほど前、海岸
付近で恩田弘子(女子4番)に襲撃され右肩に被弾したのだが、今はそこは白い肌をむき出しにしていて白い包帯が
巻かれている。
全て、彩が適当に(しかし丁寧に)止血した跡だった。

「佐織ってさ……やっぱりブラつけてたんだね」

「ん……」

彩はずっと黙っている佐織を励ますために場違いな話を持ちかけたが、どうやら駄目そうだった。同じクラスメイトに撃
たれたということは、多分佐織にとって相当なショックだったに違いない。簡単に精神状態が元の状態に戻るとは考
えることなどとても出来なかった。



 あの時。私は人殺しをした。
 気がつけば、私はサバイバルナイフを振るっていて、そのまま恩田弘子の首筋を掻っ切っていた。



なんであの時私は恩田弘子を殺してしまったんだろう。本当に彼女を殺さなくてはならなかったのだろうか。たしかに
彼女はやる気になっていた。だから佐織も平気で撃ったのだ。だから私も撃つ気でいたに違いない。いや、現に彼女
は突然姿を現した私をも撃ってきたではないか。
いや、もしかすると彼女はやる気じゃなかったのかもしれない。佐織が彼女を刺激なんかして、彼女が怯えて銃を乱
射したのかもしれない。そんな精神状態の中で私なんかが姿を現したから、殺そうと思って私も狙ったのかもしれな
い。

 だが、彼女はもう死んでしまった。真相は闇の中だ。

あの時は、恩田弘子を殺した罪悪感よりも、友達の佐織を助けなくちゃならないと思っていた。でも自分は冷静だった
のかもしれない。だから恩田弘子の所持していたデイパックも持ってきていたし、素早く地図を見てこのホテルの位置
を把握し、医務室に彼女を運んでくることが出来たのだ。
そして、消毒して、止血して、薬塗って、ガーゼ当てて、包帯巻いて……。

そっと、佐織の体を見てみる。水が無駄に出来ないから、恩田弘子の分の水の入ったペットボトルの半分で傷口を洗
い流した。だから少し佐織の白い肌は淡く染まっている。白い包帯が、佐織の白さを強調していた。そして、オレンジ
色のブラジャー。佐織は胸の発育がいいね、なんて言って、うらやましがったこともあるかな。私なんてまだペッタンコ
だもん。あ、この頃少しだけれども膨らんできてはいるけれど。

私の服はホテルの従業員の服に変わっていた。ビリジアンが基調の服で、ブレザーにちょっと膝下の長めのスカー
ト。ちょっと動きにくいかもしれないけれども、フレアースカートだから走るのには苦にならない。それに濃い目の緑色
だから、森の中では目立たないと思う。とにかく、恩田弘子を殺した血で真っ赤に汚れた私の制服を、もう着たくなか
ったのだ。
嫌な記憶は消し去ってしまいたい。
だから、私は服を代えることによって少しは心が和んだ。

「ねぇ、どうするの、これから?」

私はそっと、横になっている佐織に尋ねた。

「私はね、どこに行くあてもないで、ずっとこの会場内をふらついていたの。一人でいるのが怖かったの。だから、さ」

佐織が、虚ろな目を私に向けた。全てに対して絶望的な色。虚無の色。
それはつまり、悲しみを訴えていた。どうしてこんなにも人の命が軽いのか。

軽すぎる、このゲームでは。一人の命が、軽すぎる。

「ずっと……ずっと一緒に、いよう?」



 いつの間にか涙が流れ出ていた、自分でも気がつかないうちに。
 だから佐織が黙って頷いた光景は、ぼやけてよく見えなかった。







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