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 雪野 満(男子33番)は、F=7の民家の前の茂みの中で、じっとしていた。

既に6時間以上誰とも出会っていない。一人でいるという心細さは今や彼を完全に支配していた。かつては、出会う
級友全てが敵だと認識していたのに、今やその考えはすっかり変わっている。

 本条 学(男子30番)の影響だ。そう、全ては彼を狙っていたことから始まったのだ。

本条はあの時、とっくに自分に気がついていたのだ。そして自分は本条を殺すつもりでいたのに、だが本条は自分を
殺そうとするそぶりを見せもせず、そして堂々と自分に向けてこう言い放ったのだ。

 少しは、人を信じろよ。 と。

その時は本条が何を言おうとしているのか全然わからなかったし、そして理解しようともしていなかった。
なんせ、自分以外の者は全員殺さなくてはならないのだから。自分以外のものは全員殺して、無事に家に帰らなくて
はならないのだから。特に理由は無い。強いて言うならば、死にたくないから、この一言に尽きる。


 満は、身長168センチ、体重76キロと、かなりの肥満体系だった。それでもあの『野良犬』のザ・デブこと金城 光
(男子10番)よりも体系は一回り小さく、気持ち休まることはあるのだが、だが自分は特に特技も無い、勉強は並だ
が体育は駄目な生徒だ。当然女子達からはうざがられて遠ざかってしまったし、『野良犬』の中でもおとなしそうな顔
をして凶暴な長井 修(男子21番)からはたびたび暴力を振るわれていた。当然それに付き添うようにヘビスモーカ
ーである小林 明(男子11番)やロン毛が特徴の園田正幸(男子16番)らにもたびたび校舎裏に呼び出され、しめら
れたりもした。(リーダーの望月はそういうことに興味が無いのか、手出しはしなかったが、止めもしなかった)。
そういった点で満は『野良犬』との交流は(嫌な意味だが)クラスの中でも強かった。当然男子達も関係を恐れ、自分
から次第と遠ざかっていった。そう、だから自分は一人。たった一人なのだ。誰も自分のことなんて考えてない。満と
いう存在は別になくてもいい存在。だからみんなは自分を殺しに来るのだ。


 だが本条はどうだ?

普段から、本条学という生徒は強面の雰囲気があって、話したこともなかった。大体、あの男は一体何を考えている
のかわからない。ぼーっとした目、のっぺりとした顔に高い身長。それは明らかに自分とは異なっていたし、お互いに
何を考えているのか、それはわからないというのが当然だった。
だが、その本条は自分を殺さなかった。それどころか、自分のことを信用してくれたのだ。

つまり、それは誰もが自分を殺そうとしているのではないということ。
クラスメイトがよってたかって自分のことを殺しにくるのではない。だから、自分も無理をして相手を狙っていてはいけ
ないのだ。そんなことをしたら、それこそ相手は自分を正当防衛の名のもと殺そうとするだろう。
そうはさせない。僕は、信じる。こんな孤独感なんて、もう真っ平なんだ。

 誰か、一緒に行動しよう。誰か、出てきておくれ。さぁ、誰か。誰か。

それから約4時間。会場をふらふらとさまよっていても、誰とも遭遇することが出来ない。そうこうしているうちに残り人
数もだんだんと減っていき、一緒に行動できる級友がいなくなっていく。
誰でもいいんだ。誰でもいいから、一緒に行動してくれ。





 寂しくて、仕方ないんだ。





ふと、考えた。自分から探しに行くよりも、誰かがやってくるのを待てばいいのではないかと。
だから満は、今はF=7の民家の前の茂みの中にいた。先ほど調べたところ、どうやら家の中には人がいないよう
だ。つまり、安心して中に潜入できるだろうと踏んでの行動だ。
もう一つ理由はある。自分が家の中にいて、まさか誰もいないだろうと思って忍び込んだ人間に見つかりでもしたら、
それこそ反射的に殺されてしまうかもしれない。たとえその人物がこのゲームに参加する意思がないにしてもだ。
だから、満は誰かが家に入ったら、その後たまたま自分もその家に入ったのだという形で合流しようと考えていた。



 ふと、顔を上げた。



夜中中寝ていなかったので、目がショボショボしていたものの、必死に何かを見た。今まさに家の周りを確かめてい
るもの、それは生徒以外に誰がいようか。
スカートではなくズボンを穿いている。つまり男子だ。女子だったら自分など見つけても一緒に行動してくれるとは限
らない。でもあいつは男子だ。男子なら、大丈夫だ。
視力があまりよくない満は、それが誰なのかを知ることは出来なかった。だが、その人物が家の中に入るのを確認し
たところで、行こう、と思い立ち、歩いていった。

「おい、お前は一体誰だ?」

思い切って、声をかけてみた。ドア越しに自分の声は聞こえているはずだ。
傍から見ればそれはかなり無謀なこととしか読み取れないのだが、今や全てを信じきっている満にとっては、それが
危険なことだとは思いもしないに違いない。
ガチャリ、とゆっくりと目の前のドアが開く。自分と同じように眼鏡をかけている。君は……。

「なんだ、雪野か。何の用?」

そこには、典型的なお坊ちゃまの容姿。谷 秀和(男子18番)がたたずんでいた。
勿論、雪野は一瞬秀和の目が冷え切ったのを確認なんて、しなかった。


 ただただ、嬉しかったのだから。







   【残り59人】



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