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 G=6、商店街。
 太陽はすっかり沈み、代わりに月光が、会場内を照らしている。


そんな幻想的な世界に浸っていたのは、一人の男子生徒。あまり中学生には見えない体格を持つ彼は、今は民家
の壁にもたれかかり、じっとその月を眺めていた。
月だけではない。空気が全体的に綺麗なこの東之島では、星が透き通るようによく見えた。


 ああ、自分はちっぽけな存在だ。


あの満点の星空を眺めていると、ふとそんなことを思った。あの星一つ一つに、きっと惑星があるのだろう。もしかする
と、中には生物も存在しているのかもしれない。宇宙人だ、異星人だ。あの沢山の星の中に、どれだけの神秘が隠
れ潜んでいるのだろうか。
それに比べれば、なんて自分という存在はちっぽけなものなんだろうか。たまたまこの星に生れ落ちて、人間として
育ってきた自分は、今まさにこのプログラムによってその命に終焉を迎えるのだ。

 そう、全てが終わるのだ。

自分が死ねば、病弱な母も後を追うように死ぬだろう。自分こそが母の唯一の生きがい。その生きがいを失って、どう
やって母は生きていけばいいのか。

 だから、たとえちっぽけな存在だとしても、まだ自分は死ぬわけにはいかないのだ。

 たとえそれがどんなにハードルの高い壁だとしても、達成せねばならないのだ。



 母が待っている。

 自分を待っている。



 今、行くよ。



視界に入った女子生徒。なめらかな白い足が、月光に照らされていた。
牛尾 悠(男子4番)は、その僅かな距離をあっという間に縮め、一気に両手で握っている紐に力を入れる。素晴らし
い速さで30mはあった互いの距離はなくなり、いざ、その女子の首を絞めるのみとなった。

 だが、人生そう甘くはいかないようで。

その女子生徒が、急に走り出したのだ。後ろを見ることもなく、一目散に。
彼女の瞬発力は凄まじかった。虚を突かれた悠は急いで追いかける。彼女、間熊小夜子(女子25番)は商店街の
花屋の角を右へ曲がり、舗装されていない道へと入っていった。悠も慌てて追いかけたが、角を曲がったときにはそ
の姿は既に見えなかった。
逃がしたか、と軽く舌打ちをし、振り向いた瞬間、悠は凍りついた。


 目の前に、間熊が拳銃を構えていたので。


一体どんなマジックを使ったんだ? ああ、そうか。花屋の中を通ったんだ、勝手口か何かがあったに違いない。それ
よりも、危ない。間熊の銃口は自分に向いている。どうすればいいんだ?

「あたし、容赦はしないつもり。あんたがやる気なら、すぐに撃つよ」

間熊の額にも汗が見える。
すなわち、それは殺すことの恐怖。殺される恐怖よりも、それは恐ろしいことなのかもしれない。
だが、自分は死なない。防弾チョッキを着ている以上、銃口は自分の腹部にピンポイントなので、撃たれても平気な
わけだ。その間に、一気に間熊を締め上げる。

「じゃあ、撃って来いよ」

友部元道(男子20番)を襲ったときは、逃げた。だが、今回は逃げない。なぜなら、これは勝てる勝負だからだ。
一気に間熊目掛けて走り出す。一瞬間熊は後ろにたじろいだが、すぐに歯を食いしばり、撃った。パン、と弾けた音
がする。当然鉛玉は悠の腹部目掛けて一直線に飛び出したのだが、それは悠の体を貫くことは無かった。

 しかし。


「は…ぐぁあっ!!」

衝撃はしっかりと来た。防弾チョッキの役目は、弾を止めるためのみ。その弾から来る作用の力は、到底中学生に堪
えられるようなものであるはずが無かった。それは丁度防弾チョッキの継ぎ目の位置へ直撃し、従来よりも威力は凄
まじく、さらには運の悪いことにそこには肋骨があった。
当然普段から悠の体を支えていた肋骨は簡単に折れ、凄まじい激痛が悠を苦しめた。

「だ、だから言ったじゃない……! あんたが、悪いんだからね!!」

激痛に苦しみ、耐え切れなかった悠はその場に倒れこんだ。それを死んだのだと勘違いした間熊小夜子は、そう言
い残して走り去っていった。後には悠が残るのみ。

「……ぐぅ、ぐぐっ……!!」

今、ここで大声を上げたら、きっと誰かが来るだろう。この島にはまだ自分を含めて58人の生徒がいる。その何人か
がこの近くにいたとしてもおかしくはない。悠は、必死に痛みをこらえて呻き声を上げていた。


 畜生! なんなんだよ、これは?!

 痛い痛い、マジで痛い! なんで、なんでこんなに痛いんだ? 防弾チョッキをしているじゃないか! なのになんで
痛いんだよ、畜生!!


そんな悠は、自分の痛みばかりを考えて、周囲に気を配ることなど到底出来なかった。
彼に別の生徒が近づいていることなど、考えられるはずが無かった。





 パァン!





コルト・ガバメントから吐き出された一発の弾は、悠の頭部へと進入、滅茶苦茶に反射して、脳幹を破壊し、頭部を突
き抜けて地面へめり込んだ。
当然悠は死んでしまったし、悠自身あまりの痛みに何が起きたのかわからなかっただろう。





 唐津洋介(男子8番)は、その冷たい視線を悠の亡骸に向けることも無く、次の獲物を探して去っていった。





 男子3番 牛尾 悠  死亡







   【残り57人】



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