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 全ては順調だった。
 決行直前に、もう一度だけ軽トラのチェックをする。


中央に置かれた時限爆弾。それを囲むように、大量のポリタンクに詰められているANFO爆薬がある。そして、より燃
え易いように加工された火炎瓶と、幾分火薬が減らされているものの、殺傷能力を充分に持ち合わせている手榴弾
も設計図通りに安置した。

 あとは、こいつを中学校に突っ込ませるだけなのだ。

幸い、このエリアは道路に面していないから人目にもつきにくい場所であり、そして中学校までそう遠い位置にある
わけでもない、絶好の拠点だった。
首輪も無効化出来ているはず。最初に添付されているファイルを見たときは、首輪を外す方法もあるようだが、生憎そ
れは危険性が高いのと、一人でこなすにはかなり難しかったため、無効化措置だけにしておいたのだ。この首輪なん
か、正直どうでもいい。爆発さえしなければ、いつかきっと外すチャンスはあるのだから。

米原秋奈(女子23番)は、ふと後ろを見た。
そこには、心配そうに自分を見ている4人の姿。

 秋奈は、そっと微笑んだ。

「大丈夫。きっと、生きて帰れるから……だから、信じて」

これくらいなら別に盗聴されても大丈夫だろう。
これだけで自分達が本部を攻撃しようと察知されているんだったら、それこそお手上げだ。

「……俺達も、待ってるからな」

どういう経緯だかわからないが、ANFO爆薬の存在を知っていた同士、佐久良浩治(男子12番)。彼のおかげで、大
量の爆薬はものの数十分で完成してしまった。本当に、感謝している。
秋奈はゆっくりと大きく頷くと、振り向いて軽トラに乗りこんだ。エンジンをかけて、ギアをひく。マニュアルのそれは扱
いにくかったものの、パソコンでレースゲームをしていた彼女にとっては、一般人よりも苦労しない自信はあった。


 そう、全てはあたしが考えたことだったんだ。
 だから、最後はあたしがけじめをつけて自分で特攻役になる。


簡単なことだ。マニュアル車はアクセルを踏まなくとも暫くの間は走り続ける。大体中学校30m手前で軽トラから飛
び降りれば、大した爆発には巻き込まれないはずだ。


 仲間の首輪は無効化していない。無効化すると、怪しまれる危険があるからだ。
 作戦が成功してからゆっくりと処理してやればいいのだ。


ゆっくりと、ゆっくりと軽トラは走った。
秋奈は腕時計をチラッと見た。午前6時、30秒前。


 ああ、気がつけば太陽が姿を見せている。闇夜を支配していた月は、いつの間にかその姿を消している。
 いいんじゃないの? 夜明けと共に、プログラムが強制終了するなんて、ロマンチックじゃない?


時計の針が、6時を指し示した。
朝にふさわしい、目覚ましのようなオーケストラの音楽が流れ始める。

その音楽を聴きながら、秋奈はそっと中学校の見える場所まで移動していた。
あとは、このアクセルに力を込めるだけだ。
本来なら爆発してその役目を果たす首輪が、禁止エリア内でも反応している。その矛盾に気付かれないために、放
送時間を選んだんだ。


“おはようございまーす! 皆さん、よく眠れましたか? 午前6時になりました!”


道澤の声が聴こえる。まるでこれから起こることなんか、気がつきもしないようだ。







 あたしの、勝ちだ。







アクセルを踏む足に、秋奈は力を入れた。
一気に軽トラが加速する。


“それでは、まずは朝までに死亡した生徒の発表です。まずは男子、18番 谷 秀和君。20番 友部元道君。以上
2名、続いて女子です”


F=4に軽トラが進入する。首輪は、爆発しない。
さて、この異変に気がついた本部は、どうなるだろうか。


“27番 増永弥生さん。30番 森 彩子さん。こちらも2名ですね……、あら?”


道澤が異変に気がついたのだろうか。疑問符を出している。
だけど……もう、中学校は目の前にあった。

「ゲームセット!!」

秋奈はそう叫ぶと、半ば半開きにしてあったドアを勢いよく開けた。そして、躊躇せずに外に転がり出る。
ザザザザッと、勢いに任せて体が転がされ、同時に激しい痛みが秋奈を襲った。


“なっ?! どうして……!”


軽トラの勢いは、止まらなかった。






 次の瞬間。























 中学校が、大爆発をおこした。



























 そっと、秋奈は笑った。







   【残り46人】



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