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 マガジンの入れ替えには苦労したが、大丈夫、一度やってしまえば、あとは感覚で行える動作だった。フルオート
では弾の浪費が激しすぎる。つまみはセミオートにしておいた。
一方、相手の方はというと、単発の銃を一発ずつ、正確に狙ってきていた。どうやら自分がここに隠れているというこ
とはわかっているらしい。だが所詮は単発銃。弾切れしたときを狙えばいいのだ。


 相手は……何処にいる?


沖田は、じっと方向を確認していた。時折そちらに向けてマシンガンを少量だけ撃った。その一瞬だけ顔を出したとき
に、さっと隠れる陰があった。そこへ向けてマシンガンを掃射する。だが、木の幹に姿を隠しているので、どうやら一発
も当たらなかったらしい。
またマガジンが切れた。マシンガンの欠点は、弾の浪費が激しいことだ。単発銃のように、1発1発を大事に撃つとい
うことが出来ないわけではないが、なんとなく、見えない敵に対してはそれで戦うわけにはいかなかったのだ。
だが状況は変わった。自分も、相手の姿を確認できた。やってやる。まだ、代えの弾はいくらでもある。マガジンを手
早く詰め替えて、再び幹から顔を出した。

 その時、奴を、見た。

そこにいたのは、さっきと変わらない位置。姿を隠した幹に、男は 姿 を 隠 さ ず にいた。
その両手に握られているのは、二丁の拳銃。


 なんだって―― ?!


目を見開いた。意外で、そして大胆な行動に、度肝を抜かれた。
まさか、そこに堂々と立っているなんて思いもしなかった。一瞬、躊躇して銃を撃つのが遅れた。いや……撃てなかっ
た。気が付いたときには、もう頭を引っ込めてしまっていたから。



 タァン!



頭を引っ込めていなければ、間違いなく即死だった軌道の弾が、沖田の頬を掠る。
一瞬ほとばしる熱いそれに、全身がヒヤッとした。初めて、自分自身の死というものを感じた瞬間だった。

唐津洋介(男子8番)。
その凍てついた視線が、沖田を硬直させていた。驚くほど冷静に戦闘していた。恐らく、次にこちらがどのような行動
をしてくるかも、大体計算しているに違いない。
第一、ここに来たのだって、銃声を聴きつけたからだろう。後先を考えない安易な行動に走ってしまった結果が、これ
だということだ。ああ、情けない。
負けるわけには、いかなかった。
間違いなく、唐津洋介は今回のプログラムのトトカルチョ第一位だろう。成績優秀、それでいて残虐性を持ち合わせ
た一面もある。身長は並だが、体力はそれを凌駕している。申し分ない。
となるとなんだ、あの男を倒せば、政府の皆さんもびっくりするというわけだ。面白い、やってやろうじゃないか。

沖田は、そう思うや否や、再び木の幹から顔を出した。
唐津が考えることといえば意外性を伴ったものだ。まさかもう全身を曝け出してはいないだろうと思い込んだら駄目な
のだ。そこを突くのが、唐津という男だ。
頭を出した瞬間、先程唐津が立っていた位置に向けてマシンガンを乱射した。だが、はっと気付きすぐにやめた。

 いない。

別の気に移動したというのか、それとも実はまだあの木の幹に体を潜ませているというのか。
木々の間の距離は約10m。一気に近付くにしても、この環境なら3秒はかかる。幸い間に遮蔽物は無い。となると、
まだあの木の幹に隠れているに違いない。

 さぁ、どうする、唐津? どうやって俺を仕留めようとする?

自然と、笑みがこぼれてきた。
楽しかった。命のやり取りをするということが、楽しかった。負けたら死ぬ。死ぬのは怖い。怖いから、死から逃げ出し
たい。そう思うから、人間は弱くなる。
死は怖くない。死を真っ当から受け止めてやる。死んだって、俺は構わない。だから、俺は強いんだ。



 パァン!



銃声がする。今度は、今までとは逆の方向に幹が弾けていた。
そのことに異変を覚え、沖田はそっと、反対側を見てみた。いや、見ようとした。

 そして、青ざめた。

「唐津……!」

そこに、まさに横方向に、唐津がいた。
自分が身を乗り出して攻撃してきた方向とは逆側、それは即ち死角。そちら側に、いつの間にか、そう、自分が色々
と次の行動を模索していた間に、移動してきたのだ。
唐津があの木の幹に隠れていたのなら、この木の幹が盾となり、沖田を守ってくれた。だが、横サイドからの攻撃に
は、この木は何の役にも立たない。


 しまった……!!





 パァン!




楽しみは、苦しみへと変わる。綻びは、痛みへと変わる。
そのたった1発の弾が、致命傷となった。腹部をそれは見事に貫通し、何処かへ飛び散っていった。あまりの痛みに
耐え切れず、思わず地面に崩れそうになる。だが、たたらを踏み、持ちこたえ、そちらへ向けてマシンガンを乱射しよ
うとした。



 パァン!



今度は右肩。その衝撃に耐えることなど到底出来ず、沖田は地面に突っ伏した。
酷い痛みが沖田を襲う。だが、それでも、諦めるわけにはいかなかった。

「うらぁぁぁぁっっっ!!!」



 ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ……カラン。。。



唐津がいた位置へ、左手のみで掃射する。だが、左手だけでフルオートを制御できるはずも無く、弾はてんでばらば
らの方向へと飛び去った。そして、唐津は、再び手近な木の幹に隠れていた。
弾切れを起こし、その役割を終えたマシンガンが地面へと転がる。それをなおも掴んでいた左手も、力なくだらりと垂
れている。
唐津が、無傷で木の根から姿を現した。コルト・ガバメントの銃口が、自分の眉間にピンポイントしていた。


 沖田は、笑った。


「唐津……負けたよ」


 次の瞬間、乾いた銃声が一発、会場に轟いた。
 そしてまた一人、尊い生徒の御霊は、砕け散ったのだった。






  男子5番  沖田 大介  死亡




   【残り31人 / 爆破対象者22人】



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