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「随分と酷いことをするもんだな」

 唐津が、蔑んだように口を開く。その姿は見えていないが、恐らくそれは笑っているのだろう。
 司は、笑いながら言い返した。

「それは……僕が脇坂を裏切ったという行動に対してかい? それとも、獲物を横取りされたから?」

 唐津は、ふんと鼻で笑うと、木陰から姿を現した。想像していた場所とは若干ずれた位置から出てきたので少しだ
け驚いたが、まぁ関係のない話だ。お互いに干渉しないという条件の下、この殺人ゲームは行われているのだ。ここ
で裏切るなんて行為は、出来ない。

「やっぱり、マシンガンは唐津だったのか」

「おかげさまでな。では中間報告といこう。俺は今のところ8人殺している」

その報告は唐突に始まった。そして、同時に驚かされもした。
8人。先程の放送から、また新たに4人が加わっている。

「僕は……まだ今の脇坂で4人目だ」

「なんだ、あれからまだ誰も殺してなかったのか」

「うるさいな。まぁ……そうなんだけどさ」

不思議だった。普段はあれほどライバル視していて、そして唐津を嫌っていたというのに、今の自分は少しおかしかっ
た。気軽に唐津と話せるという点がまず一つ。そしてもう一つは、普段から凍てついた視線をしていて言葉を全く発し
ないあの唐津が、珍しく饒舌だということだ。
殺人の話で会話が盛り上がるなんて、なんとまぁ。

「もうそろそろで特別ルールは終わりだ。そうなると、もう今みたいにポンポンとキルスコアを伸ばせるとは思わないこ
とだ」

「わかってる。それから……」

「……なんだ?」

「辻に、気をつけろ。あいつは……やばい」

何故か、勝手に口が動いた。唐津は敵であるはずなのに。協力なんか、一切するつもりはなかったのに。
だけど、辻のことを喋ってしまった。それは、一体どうして?

「ああ、辻か。わかった、ありがとな」

 幻影を見た。


 唐津が、笑っていた。


「唐津、お前……」

「黙れ。殺すぞ」

なんだか信憑性があったので、それ以上は言わなかったが、確かに唐津は今笑った。
なんだ、笑えないということはないんだ。まぁ、それはぎこちなかったけれども。

「粕谷」

振り向いて立ち去ろうとしていた唐津が、唐突に足を止めた。そして、視線だけを自分に合わせる。
数秒間その状態で黙って見詰め合っていたが、唐津はふっと視線を外すと、森の奥のほうを見ていた。

「アレは……痛まないのか?」

その言葉を聞いた瞬間、何かが崩れ落ちた音がした。

「な……なんのことだよ?」

「とぼけるな。俺が知らないとでも思ったか?」

「……知ってたのか」


「痛むのか?」


「いや……まったく、自覚症状はないんだ。だから、支障は無い」

「そうか……。まぁ、頑張れよな」

 それだけを言うと、再び唐津は歩き去ってしまった。
 そして後には、司が残るだけとなった。



 あいつは……知っていたのか?
 突然のその意外な言葉で動揺している自分がいることに、司は苛立っていた。


 間もなく、タイムリミットまで1時間半となろうとしていた。




   【残り21人 / 爆破対象者10人】



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