何だって?

 今、あの教師はなんて言ったのだ?


「プログラム…だって?」

 立っていた玉吉が、思わず呟いた。それに答えるかのように、門並は言った。

「そう、本年度第2号のプログラムに、君達が選ばれました。えーと……朝には貴方達のことがニュースで発表 されるから……うん。あ、でも一応親には、伝えておきましたからね」

 親に伝えた……。
 果たして全ての親は納得してくれたのだろうか?

 馬鹿げてる。子供を可愛がらない親が何処にいる? ああ……そういえばうちのクラスに1人いたな。月島厚 (14番)がそうだったはずだ。彼の母親は厚志に虐待をしたとかで警察につれていかれたきり、戻ってこない ようだ。まぁこの国のことだ、強制労働キャンプにでも参加させられているに違いない。厚志も、せいせいしたと か言っていたし。

「それで、今皆さんがいる場所を説明しますね」

 中には政府の役人に反発した親もいるかもしれない。多分……彼らは全員逮捕されるか銃で撃たれるか… …どちらにしてもただではすまないに違いない。俺のオヤジとか、大丈夫かな……?

一方門並の方はというと、最初の緊張感が抜けてきたのだろうか、随分と落ち着いて見えた。今は後ろの黒 板、先程『門並増美』と丁寧に書いた文字の横に、大きく丸に近い図形を描いていた。右上が少し突き出てい て、やや楕円形のような形をしていた。

「えーっと……ここはこんな形の島です。皆は知ってるかな? ここは七ッ島諸島の六島です。周囲は6キロくら いで、まぁ中規模の島ですね。ここは全部使って構いません。何処に行ってもいいです。あと、ここに住んでい た人には全員出て行ってもらっています。だから民家に無断で入っても構いません。店の物を盗んでも構いま せん。とにかく、このゲームの間はどのような犯罪をしても大丈夫です」

 犯罪……か。確かに殺人は立派な犯罪だ。

 でも……だれがやっていいと言われてするものか! ゲロが出る!!


それよりも、泰志は会場の方が気になっていた。六島――大東亜全国地図で見てもわかるように、石川県の沖 200キロ以上離れた所にある小さな諸島の中では大きな島、だ。勿論泳いで逃げだすのは不可能。でも…… ここまでは船か何かで来たはずだ。だから、それらを奪うことが出来たなら……。


 どうする?
 プログラムって、殺し合いなんだよな?

 仲間と殺しあうことはないと思うけれど、どうする?
 どうやって、脱出する?


門並はいつのまにか積み上げられていた緑色の大きなデイパックを一つ持ち上げて、言った。

「それで、皆さんには一つずつこのデイパックを持っていってもらいます。中にはこの……黒板に書いてある地 図よりももっと精巧な会場地図と、コンパスに懐中電灯、筆記用具に、食料となるパンと水。そして武器が入っ ています」


 武器だって…?

 つまり、スタンガンとか、包丁とか、ロープだとか……。


「武器は1人1人別の物が入っています。だから当たりもあれば、はずれもあります。でもはずれだからって諦め ないでね。当たりの人の武器を奪えばいいことです。まぁ、民家とかに勝手に入れば包丁とか調達できるから、 それで友達を殺しても構いませんよ」


 ……いい事を聞いたのかもしれないけれど、もとよりこのゲーム……ゲームかよ、クソ! 史上最悪の椅子取 りゲームじゃないか! ふざけるな!

泰志は叫びたかったのだけれど、私語をしてはいけない。今は、我慢して黙っていた。


「えーと……一気に話したけれど大丈夫かな? 何か質問のある人。手をあげてね♪」


だんだんと緊張がほぐれて、むしろ態度が悪くなった。
教室を見回すと、幸弘と目が合った。


 そうだ……自分はリーダーなのだ。

 なんとかグループで合流して、全員で脱出しなければ……!


と、1人の男子生徒が手をあげていた。自分の席から、左斜め前。手西俊介(23番)だった。

「ん? えーと……手西……君、かな? 何?」

 凛としている門並の声に、手西は怯えながらも(膝が震えていた)言葉を発した。

「あの……骨折していて……入院している……外都川は……」

 思い出した。外都川仁(35番)は、つい1週間ほど前に、交通事故にあって足を骨折していた。今は病院で療 養中……のはずだが、彼は一体どうなったのだろうか?

「あー……ゴメン。言い忘れてました。ちょっと入ってきてくれる?」

 そういって門並が手招きすると、迷彩服を着た男(兵士だろう)が、大きな寝袋を担いで教室に入ってきた。途 端、何かとても嫌なにおいがした。


 なんだ? アレ…?


「外都川君も持ってきました。不公平じゃない。きちんと持ってきましたよ」


 持って来た?

 なんだよ……道具じゃないんだぞ、おい……!?


その兵士が寝袋のジッパーをあける。むわっと異臭が強くなった。1番前の席の手西が悲鳴をあげる。


 なんだ?

 なんなんだ!?


おそるおそる寝袋を覗いてみた。
その物体は、淀んだ眼球を天井に向けていた。


まぎれもない、外都川仁の死体が、そこに、あった。



  35番 外都川 仁  死亡



【残り41人】




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