15

 月明かりに照らされた闇夜の海岸。砂浜を右手に、2人の男が半ば走っていた。砂浜なので、勿論障害物な んてものは無い。今狙われたとしたら、恰好の獲物だ。
現についさっきも、銃声……が聴こえているのだ。既にゲームは始まっている。

コンパスを月明かりにかざす。

『南』……リーダーが伝えたその言葉を頼りに、筑後高志(10番)と千代崎元道(12番)はただひたすらに走っ た。僅か20分ほど前に、2人は分校の前で落ち合い、行動を共にしている。高志は元道と出席番号が近いこと に気が付き、分校の前で待っていたのだ。その間に武器も確認した。果たしてそれが本当に『武器』と呼べる物 なのかどうか、純正塩化ナトリウムが10粒ほど入っていた小さなビン、確かにこれは口に含むと毒素が強く、 呼吸困難が起こり、摂取量が多いなどの理由で最悪の場合死に至るということもあったが、まさか食事に毒を 盛る……なんて芸当はまず出来ないだろう。もっとも、やる気などひとかけらもなかったが。
また元道の『武器』といえば、一言で言えば鈍器……何の変哲も無い鉄棒だった。背後から殴りかかれば、特 に後頭部を殴れば致命傷にはなる。後遺症も残る可能性はありうるが、先程聴こえたような銃相手では勝てな いだろう。とにかく今は、泰志が指示した『南』へいくのみだ。
自分達の前に、同じく2番違いで出発した寅山 寿(41番)と大河幸弘(1番)がいる。幸弘は一見チャラチャラ しているように思えるが、いざというときには役に立つ男だということを知っている。
つまり臨機応変……勉強のしすぎだな、俺は。こんなことならバスの中で参考書なんか読むんじゃなかったよ。


 地図でいうと、現在はI=6にいることになる。最南端は、近い。

 周りを見回して、誰もいないことを確かめると、高志は元道に言った。


「もうそろそろ南の端だ。多分……幸弘も寿もいる」

「あいつら……そっか。でも、集まって……どうするんだ?」

そういえばそのことには気がつかなかった。ただ集まるということにだけ注目していたが、所詮集まったところで どうするのか? 皆で団結してクラスメイトを殺すのか? それとも隠れつづけるのか? まさか、脱出するなん て考えているんじゃないだろうか? 脱出……できるのか???

「脱出しようと考えているんだろうな、泰志は」

ふと元道が言った。推測だが、泰志なら多分そうしようと考えているだろう。誰だって、こんなクソゲームしたいと は思っていないだろう。脱出したいと考えているに違いない。
現に3年前には脱走者が出たとも言われていた。自分達ももし脱走することができたなら……だが、所詮それ だけだ。きっと政府の奴等は自分達をさんざ探しあげた挙句、裏路地で殺すのだろう。だったら……脱走して も、意味はないんじゃないか?

「でも、脱走しても……」

「先のことは考えない方がいい。まずはこのゲームから抜け出す方法を考えなきゃいけないだろ?」

そうだ……脱走してから考えても遅くはない。このゲームから逃げだせれば、とりあえずは終わるんだ。

「そうだね……サンキュ」

既に400mは走っている。そろそろ南の端についてもいい頃だろう……。

「おーい」

声が聞こえた。みると、弧を描くような海岸線の頂点に、2人ほどしゃがんでいるのが見えた。少し大きめの岩 場に変化していて、足元が砂ではなく、濡れた岩だということにも気が付き始めた。障害物が増えてきた。
滑らないように慎重に、しかし小走りで2人のもとへ到着。元道も大きな岩に腰をおろした。もちろん、自分達を 呼んだ2人は、幸弘と寿だった。

「幸弘……寿……!」

「やっときたな……でも、俺達一緒だぞ……!」


 もう逢えない奴もいる。

 だが、今、高志は生まれて1番、幸せな時をおくっていた。



 こんなに、友達という存在がいいものだなんて。

 俺……俺……。



うっすらと水平線が明るくなっている。夜明けは近い。



【残り37人】




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