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 団条が死亡した丁度その頃、徳永泰志(31番)は常滑康樹(32番)の死体からそう遠くないところに、潜んで いた。常滑を銃で殺害した直後、その殺人に対する嫌な思いを振り切るために、死体に慣れておかなければな らないと思ったのは、これからもきっと人を殺すから。仇を討たなければならなかったから。
だが直後、すぐ近くを人が通る音がした為、一旦は茂みに姿を隠した。後ろから見ると、背が高いことから種村  宏(7番)だけは確認できた。他に2人いたようだが……一体誰だったのだろうか。
そして、今もその茂みの中に姿を隠しつづけていた。のこのこと姿を晒していたら、それこそ恰好の的だからだ。 自分は絶対に仇を討つ。それまでは……それまでは、決して、死ねない。

『ヤスシってさ、皆から気に入られていたんだよね。羨ましいなぁ』

唐突に寿の声が聞こえた。はっと頭を上げる。


 幻惑だ……!
 寿の声が聞こえるなんて、おかしい……! だって……寿は……。


大丈夫、自分は大丈夫だ。決しておかしくなんか無い。ただ、殺された仲間のことを考えていただけだ。

『でもさ、なんでも自分で無理してる感じがするんだよね。少しは俺達に相談しなよ』

今度は幸弘の声。


 なんで?! なんだよ?!


『無理しちゃ駄目だから、ほら、別に俺達、仲間じゃんかよ』

続いて元道の声が響く。ああ、そうか。

思い出した。あれは……十和田雅彦(元43番)が常滑のいじめに耐え切れずに転校してしまった時だ。助けて やれ無かったって、自分を責めていた時、他の仲間が自分を慰めてくれた時の言葉だ。
それが自分にとって、とても印象に残っていたことなんて、今の今まで忘れていた。


 でも、何故今?


『だからさ、十和田の事は、気にするなって簡単には言えないけれど……泰志が1人で悩むことは無いだろ?』

高志の声も続いて流れてきた。


 これは……走馬灯なのか? 俺は、もうすぐ死んでしまうのか?


『死ぬことなんて考えるなよ、泰志。だけど、常滑に復讐することは、俺だったら反対するな』

『ユキヒロの言うとおりだよ。ヤスキに仕返ししたって、マサヒコはそんなこと望んでないって』

その言葉が頭に響いた。止めたい、止めたいと思っても、それは一旦始まってしまった音楽のように、停止はし てくれなかった。頭の中を、ひたすら当時の言葉がかけめぐっていった。



 痛い……痛い……!



心に突き刺さるのがわかった。
今の状況で言えば、十和田雅彦が殺された仲間。常滑が、誰かわからない仲間の仇だった。

『敵討ちなんて、やめとけ。俺達だって、そんなこと望んじゃいないんだから』


 響いた。
 望んでいない? 本当にそうなのか?


『泰志には泰志でいて欲しいんだよ。常滑なんて放って置けばいいだろ?』


 だがその常滑は、既に自分の手で殺していた。
 もう、自分は人を殺してしまったのだ。十和田の復讐、と言って。


『大丈夫。失敗したって、やり直せばいいんだから』

がんと、頭を殴られたようなショックを受けた。



 ――そんな……! 俺は……俺は……!





 ガサ…ガササッ!





後ろの茂みが動く。だが、もうどうでもよかった。
こんなの、気にしなければいい。今は人を殺せば、この走馬灯もきっと治まる。

「お……泰志じゃないかぁ♪」

振り返ると、出席番号が1つ前の、時津 優(30番)が突っ立っていた。
黙って泰志は、カジュアル2000・オートマチックの撃鉄を起こす。

「……徳永?」

目の前の時津は何が起きたのかわからないようだった。泰志は何かに突き動かされるようにして、引き金を引 こうとした……が、そこで初めて指が震えているのがわかった。


 くそ……畜生! なんでだよ!
 殺すって、決めたじゃないのか?!


「そうか、徳永。お前、仲間が死んでいたからやる気になったんだな?」

その言葉を聞いた瞬間、頭の血が一気に下がったのがわかった。



 ああ、俺、俺……!
 俺は、仲間の為に殺し合いをしている!


 そんなのは……誰も望んでなんかいない……!!




「と、時津……俺は…どうしたら……!」

「頭を冷やせよ、徳永。お前らしくないぞ」

「時津……!」

「一緒にいよう。お前、精神的に疲れが出ているよ」

泰志は、自分が泣いていることに気がつき、慌てて袖で拭った。

「わかった…すま…ない……。ありがとう」


 暴走しかけた徳永泰志は、こうしてやっと……沈静化した。
 時刻は間もなく、11時を指そうとしていた。



【残り24人】




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