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 徳永泰志(31番)は、時計を見た。
秒針が、丁度12をさしたところだった。

「そろそろ正午だ」

「正午か……また、誰か死んだのかな……?」

隣に腰掛けている時津 優(30番)が言う。泰志は少し嫌な気分がした。
自分も、人を殺しているのだ。それを時津は知っているのだろうか?

“はいはーい! 元気ですかー?! 正午になりましたよー!”

 丁度いいタイミングで、門並の声が聞こえはじめた。こんなに大きな声を出して、何かを吹っ切ったような感じ がしていた。それはあくまで推測で、別にどうでも良かったことだけど。

“結構あちこちで銃声が聞こえてますね。じゃ、早速死んだ友達を発表しますよ!”

「へっ、よく言うよ」

 時津が文句を言う。後ろから声が聞こえたので振り向くと、さりげない位置に拡声器が置いてあった。ここから 放送が増幅されているのだろう。思わず拳銃で撃ちたくなったが、それは危ないので、やめておいた。

“まずは2番 多重山俊也君。続いて3番 尚本健一君”

 どんどん名前の横にチェックを入れていく自分が、嫌になった。
もう、人が死んでもどうでも良くなってきている自分に、嫌気がさした。いくら仲間の大半が死んでしまったからと いっても、そう思うことはいけないことなのに。

“9番 団条大樹君。21番 鶴岡雅史君。22番 出川 真君、まだまだいますね”

 チェック、チェック、チェック、チェック……


 死にすぎだ。
 しかも、まだいるだと……?


“28番 東堂友良君。32番 常滑康樹君”

常滑の名前が出た途端、嫌な感じが改めてした。自分の気持ちが激しくなっていた時、襲ってきたからにしろ、 銃で殺してしまった。まぁ、それがこのゲームのルールであり、かつ絶対必要条件なのだけれど。


 嫌な感じだ。チェック、チェック……


“36番 殿村竜二君。42番 鳥本賢介君。以上9名ですね、ちょっとペースが落ちてますが、通常に比べたら かなり速いペースらしいです。頑張ってくださいね♪”

9人。6時間で、9人ものクラスメイトが死んだ。残りはもう半分近い。
後半の言い方も気に障ったのだが、随分と名前の横のチェックが増えたことに、正直むかつきもした。

“では、続いて禁止エリアを発表します。1時間後、1時からB=4”

B=4は、島の北側、郊外の荒地に存在していた。

“続いて3時間後、3時からE=1”

E=1は、島の西側、ここも同じく荒地になっていて、道路は存在していなかった。

“最後に5時間後、5時からF=7がそれぞれ禁止エリアとなります。それでは頑張って殺しあってくださいね。 今日の最高気温は16度だって。じゃ、元気にね♪”

F=7は、すぐ近くのような感じがしたが、ここから400mばかりか。しばらく、移動の必要はなさそうだった。
ひっかかるとしたらここか。他はとても入り込めるような地形ではない。

「……移動はしなくてもいいけれど、なんだろう、嫌な予感がする」

時津がさりげなく言う。
泰志は目の前に屈みこんで言った。

「何処に居たって嫌な感じがするさ。常に誰かから狙われているんだからね」

「そっか……この9人、自殺したわけないし、やっぱり……殺されたんだよね」

お前の目の前にいる奴は殺人鬼なんだぞ。といっても洒落にならないからやめておく。


 もう、自分は決して殺さない。
 そう決めたはずなのに。


「で、どうするんだ? 結局、移動はしなくていいのかな?」

「いいさ。とりあえずは、ここにいよう」


 いつの間にか、銀の冷たい首輪の存在は、苦しくはなくなっていた。



【残り22人】




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