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バカ兄!
出発前に、妹の孝子からそう叫ばれた事をふと思い出した。
堤 洋平(17番)は、悪友の死に悲しみながらも、今はそんな時をしている場合ではないと思い、灯台へと向っ
ていった。今はもう、あの門並とかいう教師を信じるしかない。
孝子、ゴメンな。どうやら兄ちゃんは、本当にバカらしい。悪友も俺が殺してしまった。
もし、お前がプログラムに選ばれることになったとしても、その時は自分の意志で行動しろよな? 兄ちゃんみ
たいに、人殺しにだけはなっちゃいけないぞ。
ま、お前が選ばれることになったら、相当家も運が悪いとしか言いようが無いからなぁ。ははは。
どんなに大人たちに反抗しても、洋平は妹の孝子だけには優しく接していた。そういえば出発前にも親と喧嘩
していたっけな。プログラムに選ばれるかもしれないって冗談かましたら、本当にそうなるなんて、思ってもいな
かった。
でもな、兄ちゃん、孝子だけは俺みたいになって欲しくないって思ってんだ。堪忍な。
もう、お前が死ぬまでバカ兄で構わないから、俺のこと、忘れないでくれよな。
そして、灯台の前に立っていた。島の中でも最も大きな建造物。その白い巨体は真夜中でもはっきりとわかっ
た。今は電気も通されていない為、本来の役割は果たしていない。それでも、立派な建物だった。
洋平は覚悟を決めて、バルラPK85・リボルバーの撃鉄を起こした。
奇襲だ。全員、ぶち殺してやる……!
パァン!
鍵穴を撃ち抜く。簡単にドアが開いた。
一気に体当たりして、扉を蹴破った。そして持ち前の動体視力を用いて、中にいる人物を瞬時に認識した。
3人。身長の高い種村 宏(7番)、たしかリーダーだった竹崎正則(4番)、そして……拳銃を握っている天道
剛(26番)。
まずは武器を持っている奴だ!
洋平は瞬時に身を翻し、呆然としている種村を弾き飛ばして、撃鉄を起こしかけていた天道に向って、引き金を
引いた。乾いた衝撃が手に伝わったが、洋平は笑んだ。
パァン!
同時に音が耳元で聴こえて、天道の後頭部が爆発していた。流石と言うべきかどうかは分からないが、天性の
狙撃手だった。天道は軽く後ろへ吹っ飛び、竹崎を巻き込んで床へ倒れた。
「天道?!」
竹崎が天道を揺さぶる。
おいおい、考えてみろよ、後頭部が爆発している奴で生きている奴なんて、聞いたこと無いぜ? それこそあれ
じゃねぇかよ。ゾンビゲームかなにかさ、よくわからないゲーム。
「駄目だ……死んでる……!」
その言葉を聞いている間に薬莢を排出して、今度は竹崎の頭を狙った。
次に竹崎が取る行動は、天道の拳銃を取って俺を撃つ。それしか考えられなかった為だ。
「この野郎ーっ!!」
突然背中に何かがのしかかった。
臆病者だったはずの種村が、あのノーマークだった種村が、なんと果物ナイフを振り回して自分に飛び掛ってき
ていたのだ。その背の高い巨体をかわす暇も無く、2人諸共床に倒れた。背中を打ち付けて、鈍い痛みが込み
上げた。
「よくも天道を殺しやがったな?! くたばりやがれぇ!!」
おかしい……! これが種村の力か?
ああ、火事場の馬鹿力って奴か。
くそっ!!
ナイフが左腕を掠める。体をねじっていなかったら、簡単に腕に食い込んでいただろう。種村は切れていた。
「だれがお前なんかにやられるものかぁ! 死んでしまえ! 死んで天道に謝りやがれっ!」
「うるせぇ!!」
叫び声をあげていたとき、種村が一瞬呼吸を整えていた。
人は息を吸っている時は何もできないものだ。その一瞬の隙を逃さず、右手に握っていた拳銃の銃口を種村の
腹に押し当てて、ドンッ、ドンッ! と2発続けて撃った。
「がはっ!!」
種村がその場に崩れる。
大丈夫だ。この位置なら肺に穴が空いたはずだ。人間の肺は思ったよりも大きい物だからな。
案の定、種村もそのまますぐに息耐えていた。力が無い、ぐったりとしていた。
「種村……? 種村!!」
次にしなければならないこと、それは竹崎を殺すことだ。彼は間違いなく銃を持っているはずだった。腹だ。腹を
打ち抜けば、まず力が抜ける。下手に頭を撃って反射的に引き金を引かれるよりも、そっちの方が安全だった。
「俺の勝ちだぁ! 竹崎ぃ!!」
パァン! パンパン!
今度は引き金を3発引いた。それらの弾は全て竹崎の腹部に命中し、竹崎自身も吹っ飛んだ。
はやく……はやくとどめを刺さないと……!
そしてそちらの方へ駆け寄ろうとした瞬間、洋平の背後から、ぱららららら……という聴き慣れた銃声が聴こえ
た。
7番 種村 宏
26番 天道 剛 死亡
【残り4人】
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