角元舞(女子11番)は、その光景を黙って見ていることしか出来なかった。 その光景、即ち、親友であるたいが、同じクラスメイトを殺した、まさにその一部始終を。 比較的早くに出発できた舞は、落ち着いて他のみんなを待つべきかどうかを考えた。だが、玄関に出て、同じように 誰かを待っている生徒がいないことを知り、また少なくとも次に仲間が出発するのがどう見積もっても30分以上かか ることから、仕方なく他の生徒同様一緒に出発した。 どこへ向かう宛ても無く、舞は途方に暮れていた。支給された武器は……武器、武器にはなる。箱詰めされた、毒入 りキャンディー(りんご味)だ。試しに臭いをかいでみたが、甘いりんごの香りがする、とてもおいしそうな飴だった。こ れを食べると、本当に死んでしまうのだろうか。そんなことを考えつつも、まぁ使う機会はないだろうと、誰かが誤飲し ないように、そっとポケットの中に入れた。 そして、まもなく、最初の放送で浜田篤(男子18番)が死亡したことを知る。他にも何人かが死んでいたが、それ以 上に篤の死は強烈だった。篤なら、きっとなんとかしてくれる。そう思っていたのに。あのグループ一のムードメーカー は、既にこの世から消されてしまったのか。 ショックは大きかったが、それよりも心配なことがあった。それが、たい。芳田妙子だった。言うまでも無く、たいは篤 に惚れていた。大好きだった。篤がどこで死んだのかまではわからないけれど、死んだという事実はたいにも伝わっ ているはず。大好きな奴が死んだ。うちならそれだけで発狂できる。もし、付き合っている彼、上田健治(男子2番)が 死んだなんて伝えられたら、もうどうしようもなくてそれこそりんご飴の出番が来てしまうかもしれなかった。 たいを、支えてやらないと。それが出来るのは、うちしかいない。 そしてまもなく、憔悴しきったたいに、うちは出会えた。 出会った瞬間、たいはうちの方に飛びついてきた。そして、ぼろぼろと涙を流して、わんわんと泣いた。その姿を見て いるだけで、辛かった。これまでに誰と遭遇してきたのだろう。どんな経験を積んできたのだろう。たいは、丸腰だっ た。なにも持っていなかった。武器はおろか、地図さえ持っていないのだ。誰かに盗られた? どこかに置き忘れた? 真相はわからない。だが、たいが仲間を求めていた、それだけはわかった。うちは迷うことなくたいとの合流を決め た。きちんと、面倒見てやる。そう、誓って。 そして、夕方くらいになって、ようやく神社の中で落ち着くことを決めたんだ。 わずかな食料をふたつに分けて、うちらはささやかな夕食を食べた。神社の厨房の戸棚の下に用意されていた缶詰 が嬉しいおかず。たいは、満面の笑みを浮かべて、おいしいって、言ってくれた。少しずつ、たいが元気になっていっ てる、そう思ったんだ。 だけど。 真夜中、うちが寝ている横で、たいがもぞもぞと起きる気配がした。眠れないの、とたずねてみても、たいは返事をし なかった。ちょっと夜風にあたってくる。そう言い残して、たいは外へと出て行った。もちろんそんなのは危険だ。引き 止めなきゃならない、そう思って、慌てて飛び起きてあとを追いかけたら、悲鳴が聞こえてきた。誰かが喚いている声 が聞こえる。嫌な予感がして、その方向へと急いでみたら、そこでおきていたのは。 「たい……」 「…………」 たいは、無表情だった。あんなに感情豊かだったたいが、それを全く表に出していなかった。 透き通るくらいに白い顔。その頬が、血で汚されている。それをてっきり、うちは怪我してるもんだと思った。 「と、とにかく戻って、手当てしないと!」 「……いい」 つかんだ手を、強引に振り払われた。それは、初めての拒絶。 「たい……!」 「…………」 とにかく、まずは神社に戻ろう。そう説得して、うちはたいを連れ戻した。道中も、たいは一言も喋らなかった。だけ ど、なんとなく状況だけは把握できる。顔を潰されてはいたけれど、あの髪型は由井都(女子20番)のものだ。彼女 の脇に転がっていたナイフ。あれはたいのものじゃないのはわかっている。都のものだ。となると、都がたいに対して 襲い掛かった。そして、たいは反撃して、結果的に殺した。そういう、ことでいいんだろうか。 たいが、わからない。あれだけ長く、親しく付き合ってきたというのに、わからない。それが、親友として、ショックだっ た。どうして。どうして。どうして。たいは俯いたまま、一言も喋らない。 「今夜は、もう寝ようよ。……それが、きっと一番いい」 「…………」 うちは、たいを無理矢理横にして、その上に毛布をかぶせた。そして、その隣に一緒に横になる。 出来れば、今夜のことが夢ならば。そう思って、悔やまれなくて。 今夜は、ゆっくりと眠れそうにもない。 【残り34人】
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