会場内に、溢れんばかりの声が鳴り響く。 二日目、正午。四回目の放送が始まる合図だった。 “はーい、お昼になりましたー。みんな元気でやってますかー? では、早速ですが朝から昼にかけて死んだクラスメ イトの名前を発表しまーす” 君島栄助(男子5番)は、顔を上げた。 その手には、既にペンと地図と、そして名簿が握られている。 聞こえてきた銃声は何回だったっけか。放送直後と、八時くらいと、九時くらいと、あとは……。ダメだ、なんだか朝 になった瞬間からあちこちで戦闘がおき始めている気がする。 “ではまず男子から。4番、折原庸一くん。19番、藤村光明くん。続いて女子、6番、佐藤梓さん、8番、仙道美香さ ん、13番、西野彩菜さん、19番、守時京子さん。以上の6名です。いやー、今回は結構激しい戦いが多かったみ たいですねぇ” 「6人も消えたか」 上田健治(男子2番)が、ぽつりとそう呟く。本村泰子(女子18番)が震える手つきで名簿にチェックをつけていた。 三崎玲(女子16番)が、それを心配そうに見つめている。 これで、残りは26人。まだあと、25人が死なないといけない。……25人。目の前に突きつけられた絶望感だけは、 どうやらぬぐい切れそうもない。 “はーい、次に禁止エリアの発表ー。1時からD=6、3時からF=2、5時からG=4が指定されますので、付近にい る生徒は早いうちに移動するように。以上” まだ、このエリアは指定されていない。移動する必要はない。そう考えるだけで、少しだけ心が安らぐ。しかし、どうも 禁止エリアが固まっている傾向が見られるのは、どういうことなんだろうか。 “さて、これから夜までがまた勝負どころだからね。どれだけみんなが頑張ってくれるのか、今からとっても楽しみで す。それでは、また6時間後にー” 放送は、そこでブツンと不快な音をたてて切れる。あとに残されたのは、不自然な無言の空間だけだった。 そして、やはり最初に声を発したのは上田だった。 「なぁ、腹減ってねぇか?」 「おなか?」 とりあえず、話に乗っかってみる。どうせここを動かないんだ。暇を潰せるなら潰したほうがいい。少しでも、今自分達 が置かれているこの環境が殺し合いだという事実から、逃げ出したかった。 上田はニヤリと笑うと、ドラムバッグの中から缶詰をいくつか取り出す。見ると、それは固形シチューだった。 「こんなの、どこに?」 「あぁ、さっきちょいと暇だったもんで探索してたらな、いやー、色々と面白そうなもんが見つかるわ見つかるわで。 あ、携帯コンロも台所に置いてあったから、ちょっくら取ってくるわ。栄助、とりあえず中身全部取り出しといて」 「あ、うん。わかったー」 上田が急にはきはきと動き出す。僕はそれに倣って、とりあえず缶詰を4つ開けてみる。固形だったけれど、匂いは まさしくコーンクリームシチューそのものだ。味気ないパンに浸して食べるだけでも、大分おいしいに違いない。 ほどなくして上田はガスコンロとナベを持ってきた。僕は固形シチューをその上に並べて、点火する。この夏場に食べ るものではないのかもしれなかったが、そんなことを気にしている場合じゃない。 「そちらのお二人さんも、食べるんだよね。なんか勝手にこっちで進めちゃってるけど」 上田に促されて、本村がはっと顔をあげる。自分達も手伝わなければならないと思ったのだろう、皿を手際よく並べる 上田にしたがって、スプーンを並べ始めていた。 「ご、ごめん。なんかぼーっとしちゃってて……!」 「いいっていいって。腹が減ってんだからしょーがない。あ、そだ。果物の缶詰とかもあるかもしれねぇな。ちょっと様子 見てくるわ」 「…………」 三崎が、黙って上田のあとについていく。一緒に探すのを手伝おうと思ったのだろう。そして部屋には、僕と本村の二 人だけが残された。ナベの中のスープが、コトコトと音を立てている。 「あのさ、本村さん」 「……あ、ごめん。呼んだ?」 「いや……まぁ、なんて言えばいいのかわかんないけどさ。元気出してよ」 「え?」 「だって、なんだかさっきからぼーっとしてるし。それに、ほら! やっぱごはんは笑って食べたほうが絶対に楽しいっ て!」 本村泰子の様子がおかしかったのは、放送の直後からだ。多分、あの死んだ六人の中に、誰か思い入れしていた人 がいたのかもしれない。だけど、それを聞いちゃいけない。今はただ、楽しくごはんを食べてもらえればそれでいい。 僕は、ただ、誰にも悲しい顔をして欲しくはないだけなんだから。 「そう、だよね。うん、笑わなくちゃ、だめだよね」 「あー……まぁ、僕なんかが言うのもなんだけどさ。少なくとも僕はそう思うよ。上田だって、他のみんなだって、みん なおなじだと思う。なにいってんだろね、自分」 「ん、いいよ。わかってるつもり。ありがと」 そのときだ。下が、急に騒がしくなった。上田が今は下に降りていったはず。嫌な予感がする。とりあえず火を止めた ほうがいいだろうか。そう思ったところで、誰かが景気よく階段をあがってきた。 ……そして、扉が勢いよく開く。 「おーっす! 俺っちも仲間になることになりやっしたー!」 「……は?」 そこに立っていたのは、須藤元(男子9番)。 そのうしろでは、顔に手をやってため息をついている上田と、須藤をにらみつけている三崎の姿が、あった。 それは、本当に突然の出来事で。 僕にはなにがなんやら、わからなかった。
|