司会者の男は、汗をハンカチで拭きながら、しきりにレポートを捲っていた。 会議室内には重い雰囲気が漂っており、それが恰幅のいい男を苛立たせた。嫌な空気だ。 「詳細を説明してもらおうか」 重く、ずっしりとした質量を兼ねて、恰幅のいい男は尋ねた。 司会者は泣きそうな顔になり、マイクを震わせながらゆっくりと喋り始めた。 「え、ええっと……。あの、その……詳しい説明は、今回担当された道澤教官から……」 その名前が出された瞬間立ち上がる女性。 道澤 静は自分に臆することも無く、黙って逆三角の眼鏡越しに見据えていた。ああ、嫌な女だ。 「連動プログラムは通常に進みました。資料にも、今回の詳細なデータが書かれています」 そう。そこには、次のようにレポートされていた。 1番 加藤秀樹 / 大沢尚子 (トトカルチョ順位:5位) 支給武器:スタンガン・双眼鏡 被 害 者:東雲泰史 加 害 者:松岡圭子 死 因:全身被弾・首輪爆発 死亡場所:E=4 展望台 行動経緯:出発直後、E=4の展望台に留まる。やってきた東雲を殺害後、ペアの松岡に 掃射され、死亡。大沢も連動で首輪が爆発する。 2番 熊田健人 / 高橋 恵 (トトカルチョ順位:2位) 支給武器:チーフススペシャル・折り畳み式ナイフ 被 害 者:――― 加 害 者:松岡圭子 死 因:全身被弾・首輪爆発 死亡場所:C=3 丘陵 行動経緯:出発直後、4番ペアに襲い掛かるが反撃され死亡。高橋も連動で首輪が爆発する。 3番 篠塚晴輝 / 原田真奈 (トトカルチョ順位:3位) 支給武器:――― 被 害 者:――― 加 害 者:道澤 静 死 因:全身被弾・首輪爆発 死亡場所:C=2 山小屋 行動経緯:出発前、説明中に篠塚が兵士から小銃を奪い暴走。静止を掛けるも応じず。 制裁として射殺。原田も連動で首輪が爆発する。 4番 東雲泰史 / 松岡圭子 (トトカルチョ順位:6位) 支給武器:アーミーナイフ・ウージー9ミリサブマシンガン 被 害 者:加藤秀樹・大沢尚子・熊田健人・高橋 恵 加 害 者:加藤秀樹・三島幸正 死 因:頚動脈切断によるショック死・頭部被弾 死亡場所:E=4 展望台・E=2 森林 行動経緯:出発後、熊田に襲われるも反撃、殺害。その後、展望台に向かい、そこで東雲が 加藤に殺害される。松岡は加藤を殺害、襲ってきた大沢も殺害する。その後、 三島、吉田を襲うも逃げられ、5番ペアと対峙。重傷を負ったところに三島が 現れ、とどめを刺される。 5番 西野直希 / 吉田由美 (トトカルチョ順位:4位) 支給武器:日本刀・フォールディングナイフ 被 害 者:――― 加 害 者:三島幸正 死 因:首輪爆発・頭部被弾 死亡場所:E=2 森林 行動経緯:出発後、三島に襲われ行動を別にとる。その後再開し、松岡を重症にさせ、また 三島を追い詰めるが、三島の最後の力で吉田を射殺され、そして連動で西野の 首輪も爆発した。 6,7番 三島幸正 / 森川 勇 (トトカルチョ順位:1位) 支給武器:七味唐辛子 被 害 者:松岡圭子・西野直希・吉田由美・森川 勇 加 害 者:なし(自殺)・三島幸正 死 因:拳銃自殺・頭部被弾 死亡場所:E=2 森林・C=2 山小屋外 行動経緯:襲い掛かってきたペアの森川に対して反撃、射殺。三島は単独行動をする。 途中、西野と対峙するも逃走、同じく松岡と対峙し逃走する。その後、松岡を 射殺。再度西野と対峙し、致命傷を負わされるも、ペアの吉田を射殺。その後、 連動制度の網を突き自殺。間接的に西野を殺害する。 なんの変哲もない、普通の結果記録だ。 だが、明らかにおかしいのは、最期の三島がとった行動だ。 「三島という生徒は……この連動制度の網を知っていたのか?」 「いえ……多分、自分であの時に咄嗟に思いついたものかと思われます」 「そうか……」 恰幅のいい男は、少しだけ残念そうに呟くと、ふぅと息をついた。 やはり、突発的に行うものでは駄目なのだな。もっとしっかりと、構想から練り直さなくては。その為には、もっときち んとした準備期間が要る。 「田嶋君」 「は、はい……!」 「もう一度……首輪を設計しなおしてくれるか? もう一度だけ、チャンスが欲しいんだ。ルールも変える。二度とこん なバグがおきないように、網のない計画を練る。……それでどうだ?」 「あ、いや……総統の御意思ならば、諒承致します」 「ありがとう。では、また来年ということだな」 それだけいい残して、総統と呼ばれた恰幅のいい男は退席した。 部屋を出る際に、司会者が会議を終了するようなことを言っていたが、特に気にもせず、そっとバルコニーに立つ。 もうすっかり更け込んでいて、夜風は冷たかった。だが、もうすぐ春なのだな、とも感じた。 「総統」 背後で声がする。あの、女だ。 振り向きもせずに、「なんだ」と返答する。 「総統は、知っておられたのですか?」 「……さぁ、何の話だかわからないな」 「まぁ……そうおっしゃるなら、それで私は構いませんが」 静寂。外は車が走る音だけが、不気味に響き渡っていた。 時折鳴り響くクラクションの音が、静けさをさらに増す。 「まだ、夜は冷える。風邪なんかひかないようにな」 「……はい」 そろそろ、桜の季節である。 【 完 】 Prev / Next / Top |