エリアF=3の民家。 出発地点である矢代中学校から約700m程離れた箇所にあるその建物は、何故か道路には面していなかった。森 に囲まれたように建っているその家は、恐らく何か材木業のようなものを営んでいたのかもしれない。広い倉庫には、 伐採された木々が無造作に積まれていた。 ここなら、大丈夫。 見つかる事は、多分ない。 非常電源。森の中を散策する時によく使われていたのであろうこの電気があったので、パソコンオタクな女子生徒、 米原秋奈(女子23番)はひとまずそこに落ち着く事にした。 腰を落とし、小さな液晶型ノートパソコンを開き、立ち上げる。 そして、スカートの中に入っているそのフロッピーディスクを取り出して、ふぅっ、と息を漏らした。 幸い私物の持込は許可されていたようなので、ひとまず安心といったところだ。 でも、本当に、助かるんだろうか? MASTERの言った事は本当だった。きっと、助かるのだろう。 多分。 そういって、自分で仕掛けたプロテクトを全て解除し、未だにあけたことの無いその『Program』というフォルダを恐る 恐る開封した。 途端。 「何これ……」 そこに入っていたのは大量のファイルにアプリケーション、とんでもない数だった。一体何をすればいいのか、とりあえ ず『ReadMe』というテキストファイルを開いてみた。 “やぁ、これを読んでいるってことは、プログラムに巻き込まれたってことだね。僕の名前はMASTER。君達を助ける 救世主さ。まずはじめに、何も喋らないで欲しいんだ。何故かって? それは……君達に平等に取り付けられている その首輪さ。それには盗聴器がついていてね、政府側に全て筒抜けになっているんだ。不穏な行動をしたら爆発して しまうから注意する事。わかった?” ざっとそこまで読んで、秋奈はそっと自分の首輪に触れた。爆発する、のだ、これは。もし自分が失敗すれば、これは 爆発する。咽元が熱くなるのを感じた。 “そうはいっても、別に怪しい事を言わなきゃ大丈夫さ。それに君には沢山の人を助けなければならないという使命を 持っている。友達と喋りたい事もあるだろうし、勿論脱出の為には友達の助けが必要だ。そういう場合は、まず友達 に盗聴の事を伝えること、そして、会話ではなくてこういうメモ帳に書いて会話をすることだね。じゃ、どうやってこのプ ログラムを強制終了するか説明しよう。” 友達……あたしの友達といっても、あまり友好関係を持っている人はいない。 友達……か。友達がいなければ出来ない仕事なんだろうか……。 秋奈はしかし首を振った。弱気になっちゃいけない、あたしが残っている67人全員(もっとも、それは既に1人犠牲者 がいたせいだったが)を助けなきゃならないんだ。 “まずはその枷になってる首輪の機能を無効化する。その為にはどうすればいいかは、別のファイルに書いてあるか ら大丈夫だよね。まずはその準備だけしておいて欲しい。あと、焦ってその作業はしないこと。何故かというと、首輪 を外すとそのつけていた人物が死亡したという信号を本部に送ってしまうんだ。勿論戦闘行為とかが何も無いのに死 亡、これだとは向こうも解せないでしょ? だから怪しまれる。最悪の場合、ばれたら全員の首輪を爆破させるってこ ともあるんだ。注意しろよ。” 全員爆破。自分のせいでみんなを死なせるわけにはいかなかった。 勿論、そこには書いてなかったけれど自分も殺されるのだろう。それだけでも阻止しなければ。 秋奈に支給されたのはただの水鉄砲。これで自分の身が守れるのだろうか、いやまさか。 “だから注意して作業する事。友達がいるのなら自分を殺すような仕草を会話でさせるのもいいし、別に誰もいないの なら自作自演で自殺でもいい。ただ、首輪を無効化するのはある準備をしてからにして欲しいんだ。まず、君には死 んでもらう。無効化作業をするんだね。そして、多分放送時間の直前にしてもらうんだけど、放送中に本部に爆弾をぶ つけるんだ。勿論禁止エリアになっているけど、首輪が爆発しなければ大丈夫。本部を爆破して、本部の生徒を監視 しているメインコンピュータを全て破壊するんだ。そうすれば全生徒の首輪の心配はもうしなくてすむ。上手くいけば本 部の兵士を全て殺すことも出来る。そうすればあとは好き放題。友達全員の首輪をどうにかして、待機していてくれ。 本部の異常がこっちで確認できたら、全員迎えに行くから。いいね?” 一気に読み上げた。爆弾をぶつけると書かれていたが、どうやって爆破させるのだろうか。その部分が書かれていな いということは、自分で考えろということなのだろう。 さて、一体どうすればいいか。まずは爆弾の作り方と首輪の解体の仕方だ。 プロットは完成している。あとは、それをいかに早くできるか、だ。 米原秋奈、トトカルチョ8位。脱出のために、立ち上がる。 【残り66人】 Prev / Next / Top |