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 分校前に、人影が2つ。茂みの中で揺れ動く頭は、よく見ないとわからなかっただろう。

その頭のうちの一人、女子で委員長を務めている保坂直美(女子21番)は、その綺麗な顔を茂みの間の隙間から覗
かせて、じっと分校前の玄関を見つめていた。

「ね、直美。さっきなんで峰村君、呼び止めなかったの?」

もう一つの頭、実室久美(女子28番)はそう言った。




 そもそもの始まりは、分校から出発した直美の意思だった。この事態を何とかしなくちゃならない、そう思った彼女
は、仲間を集める事を考えた。だが、そんな彼女とてクラスメイト全員を信じる事が出来たわけではない。現に玄関前
には坂本理沙(女子7番)の死体もあったし、銃声も聞こえていた。
すなわち、それは既にゲームが始まっているという事だったし、そして同様にやる気になっている生徒もいるというこ
とを示していた。本来ならば、仲間を集めるという行為は危険な事だったのだ。
だが、彼女はやろうと決心した。誰もが喜んでこのゲームに乗っているとは考えられなかったし、もしかしたらみんな
頭がおかしくなってしまったのかもしれない、そう考えたのだ。

念のためにデイパックを開け、支給武器を確認した。それは刃渡り10cm程のアウトドアナイフだった。早速厳重に包
んでスカートに差し込むと、直美はもと来た道を戻り始めた。

戻ってくる途中で出会った久美にもそのことを説明し、震えながらも久美は承諾してくれた。つまり、ともに行動しよう
と。そして、分校の前にある適当な茂みにその小さな身体をうずめて、じっと待っていたのだった。

 その時に、峰村厚志(男子31番)が出てきたのだ。



 だが、直美は動かなかった。



「だって、男の子って……怖いでしょ?」

峰村厚志は、それこそいい顔をしていたけれど、成績は中の下、スポーツは並より上程度と、普通の少年だった。と
にかくあまり馴染みが無い生徒とは関わらない方がいい、そう考えたのだ。

ちなみに久美の支給武器はどこの家庭にでもあるような出刃包丁だったために、2人の戦力はあまり高くはなかった
と言える。下手な行動をすると危ない。いっそのことなら理沙の頭に刺さっていた斧でも、と思ったが諦めた。何しろ
重そうだし、抜きたくもない。

「じゃ、雫は仲間にするんだね」

直美は軽く頷いた。そうだ、峰村厚志の次は、必然的に八木 雫(女子31番)が出てくるはずだ。案の定、すぐに泣
きながら出てきた雫がこちらに向って歩いてきた。

「雫!」

久美がそう叫ぶと、雫が一瞬ビクッと肩を震わせたが、すぐに安堵の表情に変わった。雫もそうだったが、直美と久美
に雫、それと脇坂真由美(女子33番)は元来同じ保育園に通っていた、言わば幼馴染だったのだ。

「直ちゃん……久美ちゃん……」

「とりあえず、今はここに隠れて」

直美はそう言って、雫を茂みの中に押し込んだ。雫の説得は久美に任せる事にして、直美はじっと分校の入口を見
た。時計の文字盤とにらめっこを始めて、早速2分が経った。

「静かに」

静止をかけて、3人の間に緊張がほとばしる。分校から足早に出てきたのは、女子の間では恐れられている人物。
『野良犬』のリーダー、望月道弘(男子32番)だった。
彼、望月を筆頭に日高成二(28番)、小林 明(男子10番)、長井 修(男子21番)、田代寛紀(男子17番)、金城
 光(男子9番)、そして園田正幸(男子16番)の7人が『野良犬』……つまり出来損ないの落ちこぼれと認識された
いわゆる素行の悪い少年達のグループの構成だった。
そいつらをまとめているほどの実力者である彼なら、このゲームに乗ったっておかしくない。だって、悪者だもん。絶対
に気付かれてたまるか。

幸い望月はこちらの方に気がつく素振りも見せず、方角的には南東の方へ向って歩いていった。
たしかあちらの方には小学校があった思う。あちらの方へは行かない方が無難だろう、そう直美は考えた。


それからさらに2分が経過した。この調子だと何事もなく、呼べるはずだ、そう考えた瞬間だった。
突然湯本怜奈(女子32番)が走りながら出てきた。そして、あっという間に消えた。凄いスピードだ。

「追っかけないの?」

雫にそう言われて、正直直美は迷った。大声を出したらきっと止められただろう。だけど、この状況でこの大きな声を
出すのは危険だと思った。だから彼女は諦めよう、もともと親しい仲でもない。
不承不承頷いた雫を尻目に、とりあえず直美は安心した。あとは、真由美を捕まえるだけだと思って。



 この中のいい4人だったら、きっと……。







   【残り66人】



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