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 午前10時。
 エリアG=4、民家。


特徴的な天然パーマ、眼鏡のせいで老け顔に見える(そしてそれを気にしている)女子生徒。
おばん顔と呼ばれて馬鹿にされたこともある。でも、顔なんて直すこと、出来ない。

福本五月(女子19番)は、根っからの小心者と言ってよかっただろう。勉強は駄目、スポーツも駄目、唯一の特技が
そろばん1級。地味すぎる。
だから彼女はこの大人数のクラスの中ではあまり目立たなかったし、それは今でも続いている。自分の存在意義っ
て何なんだろうと考えたこともある。答えは見つからないままだった。
だから彼女は分校前で坂本理沙(女子7番)の死体を見たとき、驚いて腰が抜けてしまった。本当は誰もがそうなる
のが普通だとは思うのだが、流石に元担任の中村 雅の死体を見た後では嫌がおうにも認めざるをえないだろう。し
かし彼女は結果として腰を抜かしてしまった。
だが、そのまま2分が経過し、後ろから誰かが歩いてくる気配がした時、彼女の中で何かがはじけた。



 殺される――

 はやく、ここから逃げなきゃ……!!



その恐怖は彼女を意図も簡単に支配した。彼女は立ち上がり、走った。運動場を潜り抜け、道なりに走った。そして
そのまま目に付いた民家にもぐりこんだ(幸い鍵はかかっていなかったのだ)。

 殺される。

この1文は、いまや彼女を完全に支配していた。もう、自分は誰かに殺されてしまう。それが運命なのだとでも言うよ
うに、彼女は頭を抱え続けていた。

 死にたくない。

その思いが頭を駆け巡ったときには、既に彼女はデイパックに手を伸ばしていた。乱雑にそのデイパックを引っつか
み、すべて中身をぶちまけた。紙やら固形物やらが音を立てて落ちた。その中に、彼女に支給された『武器』は一応
あったといえる。
だが、その支給された『武器』は、悲惨なものだった。


 爪楊枝、1箱。

 なんなのこれは?! これがあたしの『武器』だっての?!
 つまようじで、どうやって戦えって言うのよ?!


 まだ死にたくない。


次に彼女が考えたのは、今自分がいる民家を探索することだった。なんでもいい、とにかく『武器になるもの』を探さな
くてはならない。爪楊枝なんてあてにならない。そんなものは、どこにでもあるんだ。
懐中電灯をつけて、必死に家中を探し回った結果、見つけたのはどこの家庭にでもあるような包丁のみ。カッターナイ
フはおろか、日曜大工道具さえなかった。


 でも、つまようじよりは使えるわよね?
 これ持っておこうっと。


 でもどうすればいい?


結論。これだけの大人数だ、誰かしらやる気になっている人はいるだろう。その人は必ずあたしも狙いに来るはず。そ
れなら、玄関口に隠れていて、進入してきたら問答無用で刺し殺してしまえばいい。

 だって、相手はみんなやる気なんだから。

そう、みんなやる気なんだ、あたしを殺しにくるんだ。あたしなんていてもいなくてもいい存在。だったら、いなくても構
わないんだったら、みんなは率先してあたしを殺しにくるんだろう。
でもそうはさせない。あたしは、自分の存在意義を見つけるために、こうして戦いに乗ってやるんだ。まだあたしはや
ってないことがたくさんある。もっと知りたい事だってたくさんある。まだ死ぬわけにはいかない。





 あたしは、生き残るんだ。





決意表明。
ゲームに乗る。

そんな彼女は早々にチャンスが訪れることなど、まだ思ってもいなかっただろう。


そう、エリアG=4の民家。
2人の人間が、こちらに向かって歩いていることなど、まだ。



 20分後、この扉が開いたとき。







 生死を懸けたゲームが、始まるのだ。







   【残り63人】



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