エリアG=4、民家。 「ねぇ! 快斗、起きて!」 そう叫ぶ声が聞こえて、秋吉快斗(男子1番)は浅い眠りからゆっくりと覚めた。 まだ視界がぼやけている中、湾条恵美(女子34番)が慌てている姿が目に入ってきた。 「一体、どうしたんだ?」 「どうしたじゃないわよ、これ見て! これ!」 そう言うと、恵美は右手を差し出した。その手には情報端末機が握られている。 瞬時に目が覚めた。まさか……まさか、誰か死んだのか? 「さっき、わりと近いところで、何かが爆発するような音が聞こえたの。そしたら……」 爆発音? 自分はそのような音を聞いていないが、恵美の言うとおり近くでその爆発が起きたというのなら、自分は そうとう深い眠りについていたらしい。疲労が溜まっているということだろうか。 とにかく、端末機を見た。 そして、驚愕した。 「5人……か。野良犬のメンバーだ」 ディスプレイに映し出されていた文字は、金城 光(男子9番)、小林 明(男子10番)、園田正幸(男子16番)、田代 寛紀(男子17番)、長井 修(男子21番)の5人。全員、『野良犬』だったはずだ。 「ええ。それで……」 「何か、あったんだな、小学校で。でも、まだ日高と望月が死んでいない」 その通りだ。リーダーの望月道弘(男子32番)と、16時間ほど前に遭遇して、契りを交わしたあの日高成二(男子2 8番)は、まだディスプレイに表示されていない。ということは、現時点では生きているのだ。 一体何があったのだろうか? 一度に5人が死んでいるという点で、恐らく恵美が聞いたという爆発音が関係してい るのは間違いないだろう。つまり、多分この5人は、一緒のところに居たのだ。恐らく、小学校に。そして、勿論日高も 望月もそこにはいたはずだ。なのに、この2人はいまだ生き残っている。 考えられるのは2つ。外部からの襲撃者がいたとして、何か爆発物を投げ込まれ、比較的運動神経のよかった2人 は逃げることが出来たものの、逃げ遅れた5人が死んでしまったというもの。そして、もう1つ。望月道弘がメンバーを 裏切り、大量虐殺を行ったが、事前に感付いていた日高だけが生き残ったというもの。日高自身はやる気でないこと を自分で言っていたから、日高が他のメンバーを殺すなんてことはないだろう。 どちらにしても、この5人は死んでしまったのだ。何かしらの出来事があったことは間違いない。 そんなことを考えていると、再びディスプレイに何かが表示された。 画面下の赤い文字、さらなる死亡報告だ。 「恵美、また死亡報告が来たぞ」 その文字を読んだ途端、快斗は驚いた。 なぜなら、その文字は、間違いなく『望月道弘』と表示していたので。 「な?!」 さらに、数秒後、今度は『日高成二』と表示された。一番、出てはいけない名前が、表示された。 野良犬が、全滅したのだ。今度は、爆発音の類などは、全く聞こえなかった。 「嘘……、なんで?」 「誰かに、襲われたというのか?」 それは恵美も覗き込んでいたらしく、同様に驚きの声を発していた。 望月は、出発前にトトカルチョで何位だか忘れたけれど、2、3番目だった気がする。その彼が、既にこのゲームから 退場してしまったというのは、恐らく政府の連中も、驚いていることだろう。 一体、誰が殺したんだ? それよりも、日高成二が死んだことのほうが重要だった。 24時間何も起きなかったら、来てくれといっていたのに。残り時間は、あと1/3だったのに。 「日高君……、死んじゃったんだね」 そう、それは実に不思議なことだった。数十時間前に会話を交えた彼は、既にこの世から消えてしまったのだという、 なんとも不思議な出来事。これで、自分達がここにいる理由も、なくなった。それどころか、自分達が何をするべきか さえ、なくなってしまったのだ。 「ああ、そうだな。これから、どうするよ?」 目標がなくなってしまった今、自分達は何をするべきなのだろうか? 日高を含め、7人が死んだものの、それに対しての感情というのは、当初に比べると随分軽くなった。恐ろしかった。 それだけ、クラスメイトの死という出来事に慣れてしまったのだ。 これで、放送時から8人マイナスだ。残りは、50人。随分と減ってしまった。 「とりあえず、夜が明けるまで、ここにいようよ。快斗、まだ少ししか眠ってないでしょ?」 「ああ……」 「じゃあ決まりね。もうしばらく、ここにいましょ」 返事をしたものの、この出来事にショックを受けているのだから、果たして眠ることが出来るだろうか。 多分、眠れないんじゃないだろうか。 まだまだ、夜は長い。 【残り50人】 Prev / Next / Top |