砂田利哉(男子14番)は、辺りを見回した。 地図でいうF=3、八方のエリアのうち二方が禁止エリアに指定された、危険なエリア。 「おい、利子。誰か、近くにいるか?」 そっと、後ろにいる筈の砂田利子(女子8番)に声をかける。 大丈夫だ、この程度の声なら、誰にも聴こえない筈だ。 「うん、さっき反応が出た。F−23だってさ。誰だっけ?」 返答を聞いて、利哉は振り返った。 「奈木か?」 利子は、少し笑みを浮かべたようだ。顔の前で手を振っている。 薄暗い森が近いこの草原では、月明かりが眩しい。天候が曇りなのか、時折月が姿を消す度に、足を止められてし まうのだ。風も旗がなびく程度のもので、ガサガサと草が揺れる度、周りに誰かいるのかと不安になる。 そんな時、利子の探知機が役に立つのだ。そして、今その探知機が、反応を示したのだという。 「奈木君は23番だけど男子でしょ? Fはfemaleの略称、メスってこと。つまり女子だって」 「女子の23番ってぇと……」 「秋奈ちゃんだよ」 秋奈ちゃん―― 米原秋奈(女子23番)だ。あの、パソコンオタク。 彼女とは、利子は仲が良いものの、自分とは話したこともないので、どういう人物なのかはわからない。 信用、出来るのだろうか? 「秋奈ちゃんなら大丈夫だよね、ね?」 「そう言われても……あまり米原のことは知らないからなぁ」 「ヘーキヘーキ、行こ!」 半ば強引に、利子が手を掴んだ。ずんずんと歩いていく利子につられて、自分も後を追う形となる。探知機にはその 距離が表示される。かなり近いところにいるのだろう。自分達を示すマークにほぼ近い形で、その赤丸は表示されて いた。 やがてその位置に辿り着いたとき、時刻が丁度午後11時を示した。エリアD=9が禁止エリアに指定されたが、この 時間に外をうろつき回る連中なんてそうそういないだろう。先程聴こえた大きな爆音も、気にはなったけれども考えた って仕方のないことだし、とりあえず今は仲間を集めることが大切だと思えた。 米原秋奈を示すマークは、どうやら森の入口に立っている小屋の中のようだ。おそらく、何かの倉庫だ。周りには他 のマークは一切ない。 「まーいばーらさーん!」 その時だ。利子が、まるで能天気のように扉をノックしている。 何やってんだ、あのバカは。 「……誰よ!」 中から、返事が聞こえた。その声が米原秋奈のものかどうかは知らないが、きっとそうなのだろう。 「砂田利子ですよー、お迎えに参りましたー」 妹は、あんなキャラだっただろうか。もっとおとなしい、普通の友好関係を持った生徒ではなかっただろうか。 それとも、あれはみんなを明るくさせようと無理をしているのかもしれない。真相は不明だ。その明るい声に騙された のかどうかはわからないが、扉が開くのがわかった。そこから顔を覗かせているのは、月夜に照らされている米原本 人だった。 「トーちゃんだけ?」 「いーや、お兄ちゃんも一緒」 利子が、友達からトーちゃんと呼ばれているのは知っていた。まぁ、言い換えれば自分もトーちゃんなのだが、どうも 父ちゃんと被るので受け入れられない。 米原はこちらの方を見て、入りなさいと言った。 好意に甘えて、素直に入る。 「お邪魔します……」 小屋に入った瞬間、利哉は驚いた。その中で何が行われているのかが、理解できなかったためだ。 入口付近に置かれた何かの配線とそれに繋がっている黒い鉄の箱。そしてもう片方には、ノートパソコンが繋がって いた。液晶の電気が暗闇の中目立っていて、眩しい。 「何してんの?」 そう利子が言った瞬間だった。米原ははっとして、唇に指を立てた。静かにしろということなのだろうか? 突然パソコンの前にしゃがみこみ、必死にタイピングをするその姿は、まさしくパソコンオタクの姿だった。慌しく動くキ ーボード、チカチカと光っている画面。何がなんだかわからず、利哉は見入っていた。 やがて米原はその手を止め、液晶画面を指差した。見ろということか。利哉はそう思い、利子と2人で見た。そこには こう書かれていた。 “盗聴されているので喋らない事。下手に喋ると首輪が爆発するので注意” 咄嗟に自分の首に巻きついている首輪を掴み、米原を見やる。米原は、笑みを浮かべていた。 何故だかわからずに、先を読んだ。 “私は脱出しようと思ってる。強力な協力者がいる。仲間が必要だ。手伝って欲しい” 以上、短い2行だった。 利哉はもう一度読み直して、再度驚いた。一つは、首輪が盗聴されているということに。もう一つは、自分達と同じ考 えを持っていたということに。 そっと米原の方を見た。自信のある目をしていた。 「わかった」 一言だけ、喋った。 米原が笑った。自分も、自然と笑みがこぼれてきた。利子も、笑っていた。 脱出組が、結成したのだった。 【残り50人】 Prev / Next / Top |