深夜零時。 プログラム開始から、21時間34分経過。 “こんばんは、日付が変わりました。それでは、4回目の放送です” 担当教官である道澤の声が、静かなクラシック音楽と共に再び島中に鳴り響いた。 その放送は、勿論ここ、エリアA=5に位置する矢代港にも響いている。 “それでは、早速これまでに死亡した生徒の名前を読み上げますが……女子の皆さん達に朗報です” 峰村厚志(男子31番)は、そっと起き上がって懐中電灯をつけた。 体力を温存しておくことが大切だと言って、半ば無理矢理共に行動することになった原 尚貴(男子27番)と永野優 治(男子22番)を休ませていたのだ。交代で1時間ずつ見張りをする。そして、丁度放送の時が、自分の見張りをす る時だったのだ。 だが流石に放送の時は聴き逃すと洒落にならないので、全員を起こすことにはなっていたのだが。 地図とペンを取り出しながら、厚志は毛布の中にうずくまっている原と永野を揺さぶり起こした。 「ん? え、あ……何?」 「放送の時間だよ。起こすって約束だろ」 寝ぼけている原にそう答えながら、厚志は次の言葉をじっと待っていた。 永野の方はというと、とっくに地図を準備して待機している。 “なんと、今回の死亡者の中に女子は含まれていません。全員男子です。ほら、男子ぃ。もうちょっと頑張らないと駄 目だからね? よし、では発表します。まずは男子4番 牛尾 悠君” 「牛尾……!」 厚志は顔を上げた。親友であると同時に、やる気になった牛尾悠が、死んだというのだ。それはやる気になった人間 は確実に最後のほうまで生き残ると思っていた厚志には意外な出来事であったし、それと同時に親友が既にこの世 からいなくなっているのだという理解しがたい出来事であった。 駄目だ、こんなことでへこたれていちゃ、駄目なんだ。 同じく親友であるはずの友部元道(男子20番)にまでも裏切られたこと。あの件以来、厚志はとにかく、少しでも長く 生き延びることに専念していた。 だが、彼の名前の上に斜線を入れた瞬間、ありえない事実が発覚する。 “続いて……うーん、一気に発表しますか。全員男子です。9番 金城 光君、10番 小林 明君、16番 園田正幸 君、17番 田代寛紀君、21番 長井 修君、28番 日高成二君、そして……32番 望月道弘君” 「……なんだって?」 「あの『野良犬』が……望月が、全滅?」 原も永野も、驚きを隠せなかったようだ。厚志自身も、信じられなかった。 確かにあの『バカ軍団』が全員バラバラで死んだとは考えにくい。きっと、望月辺りの賢い奴が、全員に収集をかけて 一箇所で固まっていたのであろう。 だが、その集団も、外部からの攻撃によって全滅した。 「あるいは……内部崩壊、かな」 その部分だけが口に出てしまい、2人の視線が自分に向いた。厚志は、あえて2人を無視しておいた。 これで、8人マイナス。残りは50人、か。 “皆さんも驚いているでしょうが、とりあえず禁止エリアを発表します。一時からE=3、三時からF=6、そして五時か らH=8が禁止エリアになります” 全て、真ん中の方だ。 自分達のいるこの港は、どうやら関係ないようだが。 “まぁ、夜だし眠いと思うから、放送はこの辺りでおしまい。夜の奇襲には気をつけて下さいね。ではまた” プツンッ、と音がして、放送が切れた。 厚志はペンで禁止エリアを書き終えると、2人の方を向いた。 「さて、俺達はどうしようか?」 そう尋ねると、永野が書き上げたらしく、地図をたたんでポケットに入れながら、言った。 「さっきの時と一緒、動かない、がベストなんじゃないかな?」 「ああ、俺もそう思っていた。だけど……まぁ、望月を殺した奴がわざわざこんなところに来る可能性はないよな」 原はまだ書き込んでいる。意外と几帳面のようだ。 そんな原を見ながら、厚志は続けた。 「見張りをしていたときに、遠くの方で何か爆音がしたんだ。それ以外では銃声が何発かしただけで、全然静かだっ た。多分、望月はその爆音がした場所で戦っていたんだろうな」 「じゃ、結構ここからは遠いよね」 「それに、やる気になっているとしたら、真っ直ぐここまでは来ない。きっと、色々な場所を探索しながら来るだろう」 「なら、別にここにいても平気だよね、ね?」 書き終えたらしい原が話に参加してきた。 厚志がコクンと頷くと、あーと声を上げながらそのまま再びゴロンと原が横たわった。そんな原の耳元で、ささやく。 「残念ながら、今度はお前が見張りの番だ」 「えぇっ?!」 驚いて起き上がる原を見て、厚志はにやっと笑みを浮かべた。 とにかく、この悲しい現状を、少しでもこの寂しさを、紛らわしたかった。 なんとなく、頭の中で、牛尾悠が、笑っていた。 【残り50人】 Prev / Next / Top |