G=6、住宅街。 このエリアに、3人の男子と1人の女子が侵入した。 「まったく……なんだか夢みたいだな」 佐久良浩治(男子12番)はそう呟いた。勿論、その真意はつまり『脱出を実現できるなんて』というもの。勿論既に自 分とそのペアであり親友でもある本条 学(男子30番)は首輪に盗聴器が付いていることを既知していた。それもこ れも、全て前を歩いている砂田利哉(男子14番)と砂田利子(女子8番)のおかげだ。 あの灯台で、自分達2人は脱出しようにもどうすればいいのか悩み続けていた。そうこうしている間にも4回目の放 送が流れ、プログラムが開始されてから最も多い死者が読み上げられてしまった。自分達は何も出来ない、そう落胆 していた時の出来事だ。いきなり、外に砂田兄妹がやってきた。そして、突然言ったのだ。仲間にならないか、と。 その時は何故この2人が自分達が2人でいること、さらに名前までも当ててしまったのか不明だったので慎重に対応 したが、敵意は一切感じ取れなかったので、ひとまず錠を開けた。後に、砂田利子の支給武器が(武器なのかどうか はわからないが)自分の近くにいる生徒全員の首輪を探知するというハイテク機器だったことを知り、その謎は解け た。そして同時に、筆談でこの首輪に盗聴器が付いていることを教えられ、また自分達が米原秋奈(女子23番)の 脱出プランに協力していることも知らされた。だから、最初に『仲間にならないか』と尋ねられたのだ。返答は勿論、イ エス、だ。本条も共に行動をすることになった。 やはり、盗聴器は会場全体に設置されているのではなく、個々人の首輪に付けられていたのだ。自分の支給武器で ある盗聴器を見たとき、最初の頃はあちこちに巧妙に隠されている拡声器に一緒に取り付けられるものだと思ってい た。だが、実際にはもっと簡単な方法があったのだ。途中からそれに気が付き始めたのは、本条の声が盗聴器で鮮 明に聴こえたときだ。灯台のその部屋には拡声器なんてなかったし、ひょっとすると、なんて思ったものだが、やはり な。自然と、笑みがこぼれていた。 「あ……」 先頭で探知機を握っていた砂田利子が、唐突に声を出した。 その後ろにいる利哉が、その探知機を覗いている。反応があったのだろうか。 「男子だ……M−18、えっと……」 「谷だ」 利哉がそう呟くと、本条が後ろで即答した。流石というわけでもないが、日直を毎日黒板に書くという庶務をしていた 彼にとって、生徒全員の出席番号を丸暗記することなどは余裕なのだろう。 「谷……君か。どうなんだろな、やる気なのかな? それとも、仲間になるかな?」 利哉が困ったように呟いた。確かに、谷 秀和(男子18番)という生徒は典型的なお坊ちゃんなのだが、その素性を 知るものはあまりいない。もしかしたら、ゲームに乗っている可能性も無いとは言えない。 「谷は単独行動なのか?」 「えっと……そうね、単独行動中。じっとしているみたい。全然動いてないよ」 本条の質問に、砂田利子はそう返答した。それを聞いた本条は、すぐに答えた。 「そうか。ちょっと、様子見てくる」 そう言うや否や、本条はデイパックをその場に置き、ジッパーを開け、その中から支給武器の手榴弾を1つ取り出し た。続けてもう一つを取ると、今度はそれをベルトに引っ掛けた。 「お、おい。それはいらないんじゃないのか?」 慌てて、浩治は言った。これから生徒を助けるために脱出プランを成功させようとしているのに、どうして生徒を殺すよ うな真似をするのかが、理解できなかった。 「よく考えてみろ。今ここで俺達が死んだら、それこそ大変なことになるんだぞ。それだったら、向こうが襲ってきたとき くらいの用意は必要だろ? じゃ、行って来る」 そして、そのまま走っていってしまった。だが、曲がり角を曲がったところですぐに出てきて、こちらに向かって手招き を始めた。一体、どういうことなのだろうか。 言うとおりにそこまで近付くと、突然血の匂いが漂っていることに気が付いた。 まさか。 「死んでたよ、谷は」 そこには、谷秀和の死体が、月夜に照らされて浮かび上がっていた。 無念そうな顔をして、崩れ落ちている。その手には、P社製アックスβ−120が握られていた。それをそっと、本条は 谷の手から引き剥がしていた。そして改めて握りなおし、その刃先を月光に当ててマジマジと見つめている。 「何してるんだよ?」 「……これ、雪野の支給武器だ」 「何だって?」 雪野 満(男子33番)。第3回放送によって、既に彼の死亡は判明していた。確か、本条は彼に出くわしたとか言っ ていた気がする。そして、その斧が雪野の所持物だったと。 なんでそれを谷が持っていたのか。それはつまり。 「谷が、雪野を?」 「それはわからない。あるいは、雪野の死体を見つけて、残されていた武器を奪ったのかもしれない」 「ねぇねぇ、2人とも」 そんな会話をしていたら、突然後ろでなにやらゴソゴソしていた砂田利子が突然呼びかけてきた。死体がここにある というのに、どういう神経をしているのだろうか。あるいは、あえて見ないようにしているのか。 とにかくそちらを見ていると、その小さな手で大きな袋を持ち上げていた。 「これさ、もしかして……」 その園芸用のような大きな袋には、白い粉末が大量に入っているようだった。その袋の表面に、『農薬』と浮かび上 がっているのが何とか確認できた。そして最後まで言わないということは、盗聴されると困る発言ということ。 急いでその袋を手に取り、裏の成分表示を見てみる。そこには、確かに『硝酸アンモニウム』の文字があった。すな わち、米原に取ってくるように指示された物の一つ。爆弾となる材料の一つだ。 「よし。じゃあ、砂田兄妹。お前達2人は米原の所にそれ持って戻れ」 唐突に、本条がそう切り出した。慌てて、砂田利子が反論する。 「え? なんで?! まだ大丈夫だよ!」 「そうじゃない。谷が殺されているんだ。これ以上ここに長居するのは危険だし、それよりは戻ったほうがいい。どう せ、後は『あれ』だけなんだろ?」 「あと、『大きい物』もだよ?」 「それ取ってくりゃ両方手に入るだろ。ここから先は、俺達がやる」 確かに、残りの材料は1人でも大丈夫だ。充分に探すことが出来る。なら、危険を冒す必要はないから、砂田兄妹は 帰しても問題ないだろう。だが、流石に武器が貧弱すぎる。浩治は、自分のデイパックから武器を取り出した。 「これ、護身用に持ってけ」 「でも、それだと佐久良君。君の方が危険に……」 「心配するな、利哉。本条の手榴弾がある。それに、それだって良く燃える物だから、な?」 そう言って、浩治は利哉に火炎瓶を渡すと、さっさと行こう、と本条に促した。 この火炎瓶は、自分の支給武器ではない。目の前で自殺した、駒川大地(男子11番)の遺留品だ。あの後、とりあ えず失敬しておいたものが、こんな所で役に立つとはな。 「それじゃあ、行くとするか」 本条に言われるまま、2人は再び歩き出した。探知機がないから慎重に行動しなければならないが、まぁなんとかな るだろう。『軽トラ』なんて、その辺にいくらでも転がっているはずだ。 脱出プランは、おおむね順調だった。 【残り49人】 Prev / Next / Top |