J=2 灯台付近。 二人は、目の前に聳え立つ立派な灯台を見上げていた。 「綺麗……」 砂田利子(女子8番)はそう呟いた。 深夜である今は、恐らくいつもなら灯台から光が出ているのだろう。だが、今はプログラム中だ。勿論そこから光が出 ていることはなかったが、逆に月夜に照らされているその塔が幻想的に思えた。 このプログラムに巻き込まれて、二回目の月だ。間もなく、開始から24時間が経過する。その間にも3年A組の生徒 は順調に減り続け、先程流された放送では既に50人にまで減ってしまったことがわかっている。 このプログラムを破壊する、そう決めて、行動していた筈なのに。どうして、こう何も出来ないのだろうか。 現在やらなければならないことは二つある。 一つは、仲間を集めること。ただし、脱出の邪魔になるようなものはいけない。例えば、積極的に殺しまわっている者 や、逆に怯えて足手まといになりそうな者。この首輪が盗聴されることを伝えても、それを迂闊に広言したりしないし っかりとした精神の持ち主である者。これが、必要絶対条件だった。 そして、今自分達の手元には探知機がある。これを使って、生徒達を厳密に審査して、仲間にしていかなければなら ないのだ。 もう一つは、中学校を爆破するための材料を集めてくることだった。いきなりこれを聞かされた時はかなり驚いたもの だが、聞けば納得。なるほどと思えた。 つまり、プログラム本部の中学校にあるメインコンピュータを破壊してしまえば、この首輪が無効化されるというものだ った。全ての発案者は、米原秋奈(女子23番)だ。 “手助けをしてくれる方がいるの。そのために、私達は戦わなきゃならない。まずはあの中学校を爆破させるの” カタカタと物凄い勢いでタイピングされている文字。それを20分ほど眺めて、利子は兄の砂田利哉(男子14番)と共 に出発した。 材料は何でもいいらしい。丁度兄の利哉の支給武器が時限爆弾だったので(この武器にも驚かされたが、電源を入 れてから10分後に爆発するのだとか)、着火器具はこれに決まった。ただ、これだけだと頼りないので、火薬になる ものをどんどん持ってくるように、とのことだった。 例えば、農薬として用いられている硝酸アンモニウム、ガソリン、軽油でも大丈夫。あとは支給武器でそういった類の ものがあったら使いたいようだった。そして、それらを全て集めて、同じく何処かしらから軽トラックでもパクってきて積 んで、中学校に突っ込ませるのだとか。 ただ、問題点が一つあった。どうやって中学校にトラックをぶつけるのか? 既に中学校のあるF=4は禁止エリアに なっていたし、あそこには一歩でも足を踏み入れた瞬間、この首輪が爆発するのだ。 それに関して記述で尋ねたところ、秋奈は大丈夫だと答えた。そして、再び作業に没頭し始めたのだ。 ファイルがどんどん展開されていき、わけがわからなくなってきた。そこで、とりあえず言われたものを集めることにし たのだ。 出発の際に、秋奈に言われた。灯台を、探してきなさいと。 灯台。ずばりこれだ。秋奈は何が言いたかったのだろうか? もしかして、ここには誰かいるのだろうか? そう思ってまた一歩近付いたとき、探知機に反応が出た。 「誰かいる」 「誰だ?」 利哉が探知機を覗いてきた。二人してその液晶画面を見ると、青い点が2つ確認できた。それぞれ、M−12、M−3 0と表示されている。それだけではわからなかったので、地図を取り出して、クラス名簿と見比べた。 その2人は、佐久良浩治(男子12番)と本条 学(男子30番)だった。あまり、話したことはない。 「……ねぇ、大丈夫かなぁ?」 そう尋ねたが、利哉は首を傾けてままだった。暫くして、その口から声が出た。 「2人でこんなところにいるって事は、やる気じゃあないんだろうな」 利哉のその一言で、簡単に決心が付いた。 そうだよね、そんなに簡単にクラスメイトを疑ったりしたら、駄目だよね。 「じゃ、行こうか」 灯台の大きめの扉を、コンコンと叩く。傍から見れば、それは妹が一人走りしているように見えるかもしれない。 だが兄は知っている。知っているから、止めないのだ。 「2人とも、中にいるんでしょ? 開けてよ♪」 疑われないように、明るい声を出す。それはまるで場違いかもしれなかったが、震えた声を出して警戒感を与えるより はマシだ。 やがて、扉の反対側に人の気配を感じ、利子はそっと呟いた。 「本条君。佐久良君も呼んでくれないかな?」 「何で……!」 利子の握る探知機には、既に青い点が詳細表示されていた。勿論、今扉の向こう側にいるのが誰なのかも、そし て、そのペアが扉から数メートル離れたところに立っていることも。 扉が、そっと開く。そこから覗く本条の二重の眼に、利子は思い切り微笑みかけた。 「ねぇ、仲間にならない?」 【残り49人】 Prev / Next / Top |