G=5、矢代小学校近辺。 プログラム開始から、丁度24時間が経過した頃。 湾条恵美(女子34番)は、辺りを見回した。 先程、突然襲い掛かってきた友部元道(男子20番)。彼から逃げるようにして走っている最中に、共に行動していた 彼氏、秋吉快斗(男子1番)が負傷した。快斗はそのままあたしに逃げるように言ったけど。 その命令に従って、あたしはひたすら走り続けた。普段からそんなに全速力で走ることなんてなかったけれど、今の あたしは結構本気だった。命がけで走るなんてものじゃない。なんたって、本当に命がかかっているのだから。 あたしは歩みを止めた。追っ手は誰もいない。いやむしろ、そろそろ夜明けも来る時刻だというのにこんな全速力で走 っていたほうがかえって見つかる可能性のほうが高い。でも、正直不安だった。 今までは傍に快斗がいた。だからあたしは安心して休むことも出来たし、いつも心にゆとりがあった。 だけど、今は一人ぼっちだ。快斗はいない。あたしだけで、生きていかなくてはならないのだ。 タァン! パァン、パァン! 後方で、激しい銃撃戦が繰り広げられているのだろう。恐らく、騒ぎを聴いて駆けつけた者がいて、友部が銃をそちら に向けて発砲し、戦いになってしまったのだろう。そんなところに快斗がいて、果たして生きていられるのだろうか。そ うこうしているうちに、いつの間にかその銃撃戦も終わったらしい。ふと胸騒ぎがして、あたしは支給武器の情報端末 機をポケットから取り出した。 見ようとして、手が震えているのがわかった。怖いのだ、その、事実を知るのが。 もしかすると、快斗は死んでしまったのかもしれない。いや、あの状況から考えて、生還する方が難しいのだ。見たく ない。でも、確認したい―― 。 意を決して、あたしはそっと端末機を見た。 ああ、やはり。死者が出ている。 その名前は―― 。 あたしは、目を疑った。そこに赤文字で表示されている名前は、快斗ではなく、なんと襲撃してきた方の友部元道だ ったのだ。何故、どうして友部君が……。 可能性は一つしかない。あのもう一つの銃声の持ち主。もう一人の謎の襲撃者との戦いに、友部元道は敗れたの だ。そして、どういう流れなのかはわからないものの、まだ快斗が生きているというのも事実。 駄目だ。快斗は死なない。そう易々と死ぬような人じゃない。 そして、あたしも死ぬわけにはいかないんだ。 ふと、目の前に煤焦げた建物が目に入った。地図を月明かりに照らして確認すると、どうやらその建物は、小学校の ようだった。 小学校……。それは、かつて会話を交えた日高成二(男子28番)が、もしも誰も死ななかったら、という条件化の下 集合するように命じた建物。そして、結集していた筈の『野良犬』のメンバー全員の死亡が確認されて。 足が震えるのがわかった。多分、ここには、日高君達の死体がある。 校門を潜り抜けると、早速そこには死体が転がっていた。顔はわからないが、2つある。どちらも異様な匂いを放って いて、そして血だらけのように見えた。 駄目だ、我慢できない。 逃げるようにして外に出る。 ああ、ここはもう戦場だ。最後の一人まで、本気で政府はあたし達を戦わせる気なんだ。 狂ってる。全部で68人もの生徒。そして67人の生徒の命は消え去る。既に、残り人数は47人。20名以上の生徒 の死体が、この島には転がっているのだ。 そう、そして、きっと、あたしも、いつかは。 「あはは、見ぃつけた♪」 そのまるで現実を見据えていない明るい声が聴こえた。あたしは、そっとそちらの方を見る。 丁度沈みかかっている月が雲に隠れて、辺りは闇となった。相手の顔が、姿は確認できるものの見えなかった。 「……誰?」 「やぁっと会えた。だってさ、出発してから誰とも会わなかったんだもん。本当に、うち以外誰もいないと思ってたんだ。 でもいたんだねぇ、湾条さん。今まで何してたの?」 「誰よ……?!」 その時だ。強い風がさっと吹いて、月にかかっていた雲を吹き飛ばした。そして、相手の顔が月光に照らされる。 その女子生徒は笑みを浮かべながら、デザインカッターの刃をチラつかせていた。 「彩子……!」 「あっはは。やっぱりみんな本気で殺しあってんのかなぁ……」 彼女、森 彩子(女子30番)は、静かな目でじっとあたしを見つめてた。 【残り47人】 Prev / Next / Top |