「ようこそ、佐久良君に本条君。心から歓迎します」 米原秋奈(女子23番)は、プログラムが始まってからは会ったことのない、その2人の男子と軽く会釈を交わした。 砂田兄妹が硝酸アンモニウムを抱えて帰ってきたときは驚いたものだったが、仲間が後から来るとわかったとき、き っと自分の顔は緩んでいたに違いない。それも、運動神経がいいと思われる男子もしかも2人もだ。 今か今かと待ち望んだ末に、軽トラックと大量の軽油の詰まったポリタンクを沢山持ってきてくれた。とてもありがたか った。これで作業はぐっと早まる。 「それで、俺達はどうすればいいのかな?」 本条がそう尋ねてきたので、起動しっぱなしだったパソコンのテキストファイルを立ち上げて、恐ろしいほど素早く、尚 且つ正確なタッチで文字を書き上げた。 “まずは、盗聴されているという事実は知っているね? これからはなるべく声は出さないこと。多分政府は何故軽ト ラックを持ってきたのか不審に思ってる筈。慎重に行動して欲しい” この文字を読み終えたのだろう、大きく2人は頷いた。 “さっきからそっちの2人は作業に没頭してるから、手伝って欲しい。説明するのも面倒なんだけど、ANFO爆薬って のを作って貰いたい。知ってる?” これはまさか知らないだろうとは思ったものの、知っているのなら大分利益にはなる。 すると、なんとこういうのには全く興味ないと思っていた佐久良が、頷いたのだ。いやはや、意外だ。 “それなら話は早い。早速軽油に硝酸アンモニウムを60〜70%の割合で混合させて。でも、有毒ガスが発生するか ら、ちょっと危ないけど外でやって欲しい。全部作業が終わったら、円形に並べてトラックの荷台に積んでおくこと” 後ろの2人は真剣に文字を眺めている。 なんだか自分が偉くなったような気がして、ちょっとだけ嬉しくなった。きっとまた顔が緩んでいるだろう。 “また、爆発助長剤として、貴方達に支給された武器、手榴弾と火炎瓶も使わせてもらう。起爆装置は砂田君に支給 された時限爆弾を使う。これは何秒後に爆発するか時刻を設定して、トラックの中央に設置。そして、本部にトラックを 突っ込ませてゲームセットさせる” そこまで書いたところで、突然本条が身を乗り出してきた。そして、キーボードをぎこちなく打っている。 “どうやってきんしえりあのほんぶにとらっくを” 変換がされていないので読みにくいが、まぁ言いたいことはわかった。 “確かに、あのエリアは禁止エリアになっていて立ち入ることが出来ない。でも、実は今回のこの作戦はある人が考 えてくれたものなの。資料は沢山持っていたから、簡単に爆弾の材料とかもわかった。そして、あのエリアに入るた めの方法は一つ。この首輪を、無効化するの” 2人の目が丸くなった。 そりゃあ、そうだ。この首輪のせいで自分達は殺しあわなくてはならなかったのに、この首輪を使えなくしてしまおうと しているのだから。 軽く笑みを浮かべて、さらにタイプを続ける。 “首輪を無効化するための方法も書かれていた。勿論本部のコンピューターにハッキングできるほどの力は持ってな いし、それ自体危険なこと。だから、簡単な方法があるの。首輪の後ろに、電子ロック用の小さな溝がある筈。そこは フェイク。その辺りにある配線は全てトラップで、少しでも切れたりしたら即爆破されるから触らないこと。逆に言えば、 それ以外は触っても平気ってこと。まぁトラップ用の配線は少しはあるけど、後ろよりは安全。そして、盗聴器のことは 知ってるって言ったよね? あの盗聴器用の穴から、そう遠くないところに制御装置があるの――― ” それから、10分ほど時間をかけて、秋奈は説明を続けた。 要約すると、トラックの荷台に爆弾を設置して、本部にぶち込ませる。その役目をするのが自分自身で、首輪を無効 化(正確には爆発しないように)してから自らトラックを運転するというもの。その為に、力を貸して欲しいというものだ った。そして作戦決行時間は次の放送中。多分、放送時は多分本部も油断しているだろうから。 それだけ書き込むと、無言で2人は作業に取り掛かった。4人で力を合わせれば、きっと30分もかからないうちにダ イナマイト並みのANFO爆薬は出来上がるだろう。それも大量にだ。 大丈夫、作戦は全て上手くいっている。 これもそれも全て、『MASTER』のおかげだ。資料は完璧だった。 だから、首輪も爆発しなかったのだ。 無事に、制御装置は上手く出来たはずだ。もう、自分のこの首輪は爆発しない。 作戦決行まで、残り30分。 これで、やっと全てが終わるんだ。 多分、今の自分の顔は緩んでいるだろう。 【残り46人】 Prev / Next / Top |