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 本条 学(男子30番)は、親友が頭を吹き飛ばされる一部始終を、全て見た。
 そう、つい先程まで、生きて帰れると信じきっていた佐久良浩治(男子12番)は、もうこの世にはいない。


「浩治……!」

最早それが人間の頭部であったのかどうか疑わしいほど、その顔はぐちゃぐちゃになっていた。不思議と、何故だか
わからない。浩治の顔が思い出せない。
果たしてそれはこのショックからなのだろうか。このグロテスクな顔を見てしまったからなのだろうか。

その先に立っている唐津洋介(男子8番)が、今度はその冷徹な視線をこちらに向けた。
視線が合った瞬間、おぞましい殺意を感じて、咄嗟に学は横に跳んだ。




 パァン!




間違いない。唐津は、ここにいる全員を皆殺しにするつもりだ。
体勢が整わずに地面を一回転する形となったが、それでも止まることは許されない。こちらは相手が予測不能な動き
をして、銃弾を避け続けなくてはならないのだ。
唐津の握るコルト・ガバメントが視界に入ったときには、もう行動を開始しなければならない。だが唐津もわかっている
のだろう、こちらが弾切れを狙っていると。だから慎重に標準を定め、なかなか撃ってこないのだ。
幸いにも、ここは木々の多い場所だ。障害物は腐るほどあるし、また姿も隠しやすい。欠点としては、姿を隠されたら
危険だということくらいか。



 ふと、唐津が自分を目で追うのをやめた。

 ……何故だ?



そして気がついた。その視線の先に、砂田兄妹がいることに。



 まさか。



「砂田ぁ、逃げろぉっ!」

その凍てついた目に怯えてしまったのだろうか、硬直しきっていた砂田利子(女子8番)が、はっと気がついたように
瞬時に動き出した。砂田利哉(男子14番)も同様に利子とは逆の方向に動き出し、結局放たれた弾は両者の中間を
抜ける形となった。
非常に不味い展開となった。こちらには武器がない。残っているのは、利子の支給武器である探知機だけだ。その
上、あの2人はあまり運動神経がいいとはいえない。唐津は先にそいつらを始末しようとしているのか。



 そうはさせない。

 この時、親友だったら、どういった行動に出るか。



「やめろ、唐津!!」



 自己を犠牲にする。



逃げる2人に向けて銃を構えたその腕に、学は抱きついた。
身長180cmを超える体は、いとも簡単に唐津の標準を捻じ曲げた。

「ここは撃たせねぇ」

こうなったら、取っ組み合いで勝つしかない。唐津は体系的にはがっしりしてるけれど、思ったよりもでかくはない。い
わゆる標準より若干上程度の体系だ。
体を押し倒して、唐津の上に馬乗りになる。銃を握った右手は掴んだままだ。

くぅ、と唐津の口から息が洩れる。今までもこのようにクラスメイトを殺しまわってきているのなら、相当疲れきっている
筈だ。……まぁ、自分も、だけど。
その時だ。唐津が、予想外の行動に出た。

 右手に握っていた銃を、放り投げたのだ。

「え……?」

そして両手を広げて、降伏する意味のポーズをとっていた。



 どういうことなのだ、これは? 降参するから、逃がして欲しいという意味なのか?

 ……いや、そうはさせねぇ。俺は友の敵討ちとして、今ここで、お前を殺す。



「ふざけんじゃねぇぞ……」

掴んでいた手を放して、学はその放り投げてあったコルト・ガバメントを掴み取った。そして、振り向いてその拳銃を唐
津に向け、構えた。

「ここで俺はお前を逃がさない。絶対にお前を殺してやる……覚悟しろ!!」





 カチン。





 え……?





弾切れ。唐津はそれを知っていたから、銃を放り投げたのだろうか。
そして。

「嘘だろ……?」

唐津は、別の銃、ブローニング・ハイパワーを握っていた。
安心してはいけなかったのだ。既に唐津は他のクラスメイトも殺している可能性がある。だから、殺した生徒の武器を
持っていても、不思議ではなかったのだ。そう、それがたとえ拳銃だとしても。

 その冷徹な視線が、今度こそ絶望感を与えてきた。



 そう、全ての点において優っている存在。それが、唐津洋介という男。





 砂田兄妹はなんとか助かった。

 それだけでも、救いとするか。







 ……浩治、今行くよ。













 タァン!





 男子30番 本条 学  死亡







   【残り43人 / 爆破対象者36人】



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