粕谷 司(男子7番)は、困惑していた。 一度に沢山の出来事が起きて、正直どうすればいいのかわからなかった。 放送中の突然の爆発音。そして、意味がわからないまま告げられた特別ルール。 先程から何度も連続して鳴り響いている銃声、それもわりと近い位置でだ。 「まったく、こんな特別ルールなんて……面倒になりそうだな」 そう、司が最大のライバルである唐津洋介(男子8番)と取り決めた自分達のルール。どちらがより多くの人数を殺せ るかという、とんでもないデスゲーム。 昨日成田玲子(女子13番)を射殺してから、司は特に表立った行動はしていなかった。なんせもともとは68人もいた クラスだ。大半の生徒は殺し合いを避けて隠れるだろうから、恐らくこのプログラムはかなり長引くものだろうだと思っ ていた。だから司も長期戦に備えて、体力を温存しようと考えていたのだ。そうでなければ、民家に潜入して12時間 以上もうとうとと眠ることなんか出来るはずがない。 だがおかげで体力は有り余っているし、今なら少しくらい激しい運動をしても平気である自信があった。 そして、この特別ルールのせいで、まだ特に戦闘に参加していない生徒も、参加せざるを得ない。なんたって、6時間 経ったら、自動的に首輪が爆発してしまうとのことだからだ。 だからこれは逆にチャンスでもあった。この6時間で、生半可に動き回っている生徒をとことん殺しまわる。そうすれば スコアを稼ぐことが出来るし、どの道その生徒も6時間経ったら死ぬ身だったのだから、大した罪悪感もない。 いや、人を殺すことには躊躇はある。だが、そうでなければ殺されるのだ。そう、今だって、この近くにはやる気になっ ている誰かがいる。無理をしてその人物を今仕留めなくともよいが、いずれはそいつと対峙する時が来るのだろう。で もそれまでは、せめてこの6時間は、生き延びなくてはならなかった。 自分だけじゃない筈だ。今が殺しまわる絶好の機会だってことは、多分他のやる気になっている連中だってわかって いる筈だ。バカじゃない。 そう、この6時間が終わって、生き残りが全員誰かしらを殺害しているとなると、いよいよ本格的に危険になってくると いうものだ。誰も信じない、いや、誰が信じられるか。とりあえずは終盤まで生き残る。 そして―― 。 まぁいい。先のことは考えないで、今は目先のことを考えよう。 その時だった。目の前の草むらが、ガササッと音を立てて、そこから2人の生徒が現れた。 「あ……」 「か、粕谷君!」 その2人は、馴染みのある生徒だった。1人はよく秋吉快斗(男子1番)や奈木和之(男子23番)と共に、いつも行動 をともにして遊んでいた砂田利哉(男子14番)。そしてもう1人は、利哉の年子の妹である砂田利子(女子8番)。な るほど、この2人は一緒に行動していたというわけか。 ふん、面白い。僕を、信用してくれている。 「粕谷、ここは危ない。一緒に逃げよう!」 利哉が、慌てながらそう言っていた。隣にいる利子は、なにやらその手に機械のようなものを握っている。 あれは、なんだろうか。 「……危ないって、何があったんだよ?」 「襲われてんだよ! さっき銃声聴こえただろ? 俺達が狙われているんだよ!!」 ああ、やはり。あの銃声はこいつらを襲っていたのか。方角的に考えて、そんな予感はしていた。 「誰に襲われたの?」 「唐津だよ!! ああもう、時間がない、行くぞ!!」 その名前を聞いた瞬間、粕谷は気付かないうちに笑みを浮かべていた。 ……そうか、唐津か。なるほど、きちんと約束は守ってくれているんだ。 そっと、腰のベルトに差し込んでおいたソーコム・ピストルを抜き出す。それを利哉に向けて構えた瞬間、利哉がこちら を振り向き、そして固まった。 「……何の冗談だよ?」 「悪い、利哉。ここはお前達を逃がすわけにはいかない」 「待って、粕谷君!!」 利子が遮る。なんだ、と司は利哉から視線を離さずに言った。 その利哉の額には、汗が粒状になっているのまで確認できた。 「何かの……間違いよね?」 司は笑った。笑いながら、こう言った。 「……ゴメン。僕は、このゲームに乗ったんだ。乗るって、決めたんだ」 「嘘だろ……嘘だよな?!」 「バイバイ、利哉」 タァンッ!! 一発の銃弾は、友人の命をいとも簡単に奪い取った。 ゆっくりと倒れていく友人の傍に立っているその妹は、そっと後退りを始めている。 「逃がさないからね」 「いやぁぁっっ!!」 唐突に、利子がスパートをかけた。 物凄い瞬発力だ。その姿はあっという間に見えなくなってしまった。逃がさないといったのに、撃鉄を起こしているうち に逃げてしまうのだから仕方ない。 心臓を貫通して即死した友人の死体の傍に座り込んで、一言、ゴメンと司は謝った。 何故だかわからないけれど、2人とも支給されたデイパックは持っていない。結局、報酬はないようだ。 「どうだい、唐津。これで何人殺したんだ?」 そして、後ろに立っている唐津洋介に、司は振り向きもせずに尋ねた。 4人という単語を聞き、少し焦りを感じた。 「僕は……3人だよ。でも、これからみんな動き始めるだろうから、スコアを伸ばしていく」 ふん、と鼻で笑う声が背後でしたが、司は気にしないことにした。 そしてそのまま前に歩き始める。少し進んだところで振り返ったが、既にそこに、唐津の気配はなかった。 残っていたのは、友人、砂田利哉の死体のみだった。 男子14番 砂田 利哉 死亡 【残り42人 / 爆破対象者35人】 Prev / Next / Top |