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 奈木和之(男子23番)は、エリアE=2に位置する大樹の根元の空洞に、今もなお隠れ続けていた。
そう、突然放送中に詳しくはわからないがアクシデントが発生し、特別ルールが発令されても、それでも和之は動か
なかった。自分が守らなければならない、イングラムM11の存在を隠し続けるために。


 だが……正直言うと、和之も他のクラスメイト同様、恐怖に震え上がっていた。


 そう、余命6時間。

6時間後の放送の時間になった瞬間、未だにクラスメイトを手にかけていない和之の首輪は、盛大な花火を打ち上げ
る。それだけではない。多分、自分以外にもまだクラスメイトを殺していない生徒はいる筈だ。

 きっと、その生徒も全員。



 ……待て。よく考えたら、本当は違うんじゃないのか?

 みんな、もしかすると生き残る為に他の生徒を探し出して、殺すんじゃないのか?



間違いない。みんなが素直にタイムリミットを待つわけじゃない。きっと、どうせ死ぬのならと玉砕覚悟で襲い掛かって
くるに違いない。そうさ、きっとそうなんだ。
そして自分のノルマを達成したとき、その生徒はどうするのだろうか。考えられるのは2つ。

ある者は、殺害した直後に身を潜め、そのままなんとかしてこの死の6時間を乗り切るだろう。
またある者は、人を殺すことによって発狂し、ノルマを達成しているにも関わらず殺戮を続けるだろう。

勿論、今までのように既にノルマを達成している者でも好んで殺戮を続けるものはいるだろうし、自分みたいに最後ま
で政府に反抗してタイムリミットを迎える者もいるだろう。
だが、ここは幸い今まで誰にも発見されなかったし(砂田兄妹はどうやら探知機を当てに探していたようだ。それがな
ければ、まず発見される筈がないのだから。しかも、それでも見つけるのに苦労したらしいし)、これからも誰かに見
つけられる可能性は低いといえる。
もっとも、ノルマを達成する為に獲物を探す生徒は増えるだろうから、今までよりは見つけられる危険性は高い。
まぁ、このマシンガンを奪われなければ、とりあえずはいいのだから。

 そう、これを奪われなければ。



 ガササッ、ガサッ!!



「ぶわぁっ!」

考え事をしていると、突然近くの茂みが激しい音を立てた。体が咄嗟に反応して、イングラムに手が伸びる。
いつの間にか先程まで続いていた連続した銃声は鳴り止んでいて、またそのせいでその茂みの避ける音にも反応
できたのだろう、姿は見えないが、そこに確かに誰かいる。それだけは確認できた。
声を掛けようと思ったが、やめた。わざわざ自分の存在を相手に知らせる必要はないし、逆にそうすることで自分が危
険に曝されるのはわかりきったことだからだ。

「あいったたた……。まったく、こんなところに急な斜面があったなんてぇな……」

男子の声だった。
だが姿は見えない。一体、誰なんだ?

ただ一つ言えること。それは、この人物は自分とは親しくない生徒、それだけだ。

「チクショーめ。こっからじゃ登れねぇなぁ……仕方ない、回り道すっかぁ」

独り言が多い奴だ。一瞬駒川大地(男子11番)の姿が浮かんだが、彼は既にこのゲームから退場している筈。とな
ると、他には見当もつかない。
そして、事態は最悪の方向へ向かった。



 ガササッ、ガサッ……。



……こっちに来る!
回り道をするにしても、他にも道はあるだろう。なのに、なんでわざわざこっちに来るんだよ!



 ガサッ!



「……奈木…!」

それは、ちょっとニキビ面が特徴的な島野幸助(男子13番)だった。ポーカーフェイスのように、いつも淡い笑みを浮
かべている奴で、いつもならそんなに危険性は感じない。

 ……いつもなら、だ。

和之は見逃さなかった。
今、一瞬だけ島野がそのポーカーフェイスを崩し、無表情になったのを。それに気がついたときは、既に島野の顔は
いつものそれに戻っていたが。

「なっんだー、奈木だったのか。こんなとこにいるなんてな、びっくりだよ。よくこんなとこ見つけたなぁ」



 うるさい、黙れ。

 お前なんか、信用できない。





 ……だって、そうやって僕を騙して、殺すつもりなんだろう?



「ん、なに? 奈木はずっとここにいたのか? 丁度いいじゃん、俺もまぜてくれよぉ……な、な?」



 丁度いいのは、お前が俺を殺すからだろう?

 うるさい、お前なんか、どっか行ってしまえ。



和之は、そっと握っていたイングラムの銃口を、島野に向けた。
一瞬だけ島野の顔がこわばったが、だがまたいつもの淡い表情に戻っていた。大した演技力だ。

「な、なんだよ奈木ぃ? そんな物騒なもん支給されたのかよ……」

「消えろ」

行った瞬間、島野の顔からその笑みが消えた。そう、無表情の。獲物を狙う目で。

「……あん?」

「消えろ、ここから。いますぐにだ!」

そして、くっははは、と下劣な笑い声を上げていた。普段の淡い笑みとは違い、汚い、邪心を持った笑み。そして、そ
の目は全く笑っていなかった。

ぎっ、と島野の口がしまる。

「なぁ、奈木。特別ルールのことは、知ってるよな。次の放送で、沢山の生徒が死ぬってやつをさ」

そっと、島野が近付いてきているのがわかった。
話をして、それに気付かせないようにとでも思っているのだろう。

「実はさ、俺もまだ人は殺してねぇ。奈木もだろ? そうじゃなきゃ、わざわざここにいる意味がねぇ」

「く、来るな!」

くっははは、と再び笑い声を上げる。少しずつ、この空洞に島野は確実ににじり寄っていた。

「無駄だよ、奈木。お前は俺を殺せない。そんなへっぴりで、俺を倒せるのか?」

「来るなって言ってるだろ!」

「お前は殺せない。俺を殺せない。だけどな……」



 無表情。







「俺は、お前を殺すことが出来るんだ」







 気がつけば、トリガーを握る指に、力が入っていた。







 ぱららららららっ。







 それは、プログラム開始以来、初めて島に響いた、マシンガンの音だった。







   【残り42人 / 爆破対象者35人】



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