あたしは、やり直すんだ。 人生を、リセットするんだ。 これで4人目。 あたしが刺し殺した利島千春(女子12番)の死体は、そのまま放置しておくことにした。別にここで見つけられても、 この近くにあたしがいるということを指し示すことは無いだろう。 長谷美奈子(女子18番)は、傍らに落ちているデイパックを拾い上げると、先程まで潜んでいた民家へと戻った。そし て、早速中身を検証してみる。 武器は……なんだこりゃ、マイナスドライバーか。こいつも……はずれか。 今、あたしが手に入れた武器はこれを含めれば、最初に支給された暗殺用のワイヤー線、日高成二(男子28番)の 所持していた(そして利島を殺す際に用いた)折畳式ナイフ、望月道弘(男子32番)が握っていたアークロックナイフ だけだ。 最初に背後から近付いて絞め殺した湯本怜奈(女子32番)は自爆用のTNT爆弾だったし(危うく爆発に巻き込まれ て死ぬところだった)、他の『野良犬』の所持品を確認しようにも、体育館の爆発跡を調べても全て吹き飛んでしまっ たらしく、全く見つからなかった。なんと運が悪い。 とにかく銃だ。銃が欲しい。そうでないと、この先、生き残るのは難しくなってくる。 俊足の湯本も、ジャック望月も、背後から油断しているところを仕留めなければ勝ち目は無かったし、また日高だって 致命傷がなかったら勝てる筈が無かったのだ。利島はその点では戦闘的ではなかったし、堂々と正面から仕留める のはたやすかったけれども。 だけど違う。この特別ルールが終わったら、生き残っているのは全員人殺しなのだ。きっと、誰もが銃などの強力な 武器を所持しているはずなのだ。そうなると、それまでに銃の一つや二つ、持っていないと辛くなってくるだろう。 駄目だ。なんとしても、銃でなくったっていい、強力な武器が、欲しい。 そうでないと……生き残ることなんて、到底出来ないのだから。 あたしは、人生をリセットするのだ。 あたしは、あたしが大嫌いだった。 不良に走ったのだって、親が嫌いだったし、そんなバカらしい親に付き纏ってたあたしが大嫌いだったからだ。勿論友 達だって出来ない。天性で天邪鬼だったから、ついつい意識しないでも悪口が出てしまう。親でも、先公でも、そして クラスメイトでも。だから、独り身だった。 みんなと仲良くやっているあたし以外の全員が羨ましかった。あたしだって、こんな不良なんかやってないで、まとも に勉強して、そしてまともな人生を送りたかった。だけど、出来なかった。あたしのプライドが、不良というレッテルを否 定することが出来なかった。 だから、成田玲子(女子13番)をはめた。彼女を、スリの名人に仕立て上げて、そして不幸のどん底に叩き落した。 それを見て嘲笑っているあたしの顔は、どんなに歪んでいただろう。朝見由美(女子1番)だってそうだ。幼馴染だか なんだか知らないけど、磯貝智佳(女子2番)と親しくしているその姿が憎らしかった。だから、援助交際を教えた。あ たしまで先公に捕まるのは予想外だったけれども、これで朝見も磯貝とは縁を切るしかなくなった。 ああ、おかしい。みんな狂っている。あたしだけが、一人から回りしている。 人生に、楽しいことなんて何一つない。男達はあたしの体を目当てに言い寄ってくるけど、あたし自身はちっとも興奮 したりしない。一応それっぽい雰囲気にしないとお金を渋られるので、演技はしていたけれども、それでもあたしの心 の中は凍てついていた。 家に帰ったって両親とは喋らない。学校へ出たって、誰もあたしと喋ろうとはしない。成田も、朝見も、あたしがそうい う奴だと知った途端、急によそよそしくなってきた。なに、交流を続けてはいるけれども、隠しきれてなんかない。あた しは常に独り身。このままだったら、きっとこれからも独り身だったのだ。 だけど、そこでプログラムに巻き込まれた。 チャンスだった。それは、あたしが生まれ変わる一生に一度の大チャンスだった。 優勝しよう。生き残ろう。そして、新天地であたしは生まれ変わるんだ。これまでの最高にくだらなくそしてつまらなか った人生に終止符を打って、新しいあたしを作り上げるんだ。 そう、人生をリセットするんだ。 だから、ここで死ぬわけにはいかない。 新天地であたしが変われるかどうかはわからないけれど、望みがある限り、諦めるわけにはいかないのだ。だから、 あたしはそう易々と死んではいけないのだ。 生き残ったら、希望が待っているかもしれない。生まれ変われるかもしれない。 そう、生き残れば、優勝すれば、他人を蹴落としていけば、殺せば。 あたしは、生まれ変われるんだ。 やるしかない。簡単に決心が付いた。殺す気満々だった。堂々と胸を張って、他人を殺すことが出来た。 だけど、それには武器が乏しかった。だから、強力な武器が必要なのだ。 あたしが、生き残る為に。そして、生まれ変わる為に。 「ふふ……うふふふふ…………」 想像するだけで、楽しかった。 あたしが、明るく楽しく、クラスメイトと話している。クラスの人気者だ。 夢のような生活。それが、このプログラムを切り抜ければ。 「あっははははは!!!」 よし、十分に休んだ。充分に体力は回復した。 さぁ、そろそろ行こう。獲物を、探しに。新天地を、目指して。 【残り34人 / 爆破対象者24人】 Prev / Next / Top |