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 結局、本部に到着したのは出発してから2時間程経過してからだった。
幸いにも、発見された生徒とは戦闘にならずに済んだし、まぁ情報を一つ教えてしまう羽目にはなったが、別にそれ
でどうこうと言う事は無いだろう。禁止エリアに入り込んでからは、足取りも軽くなった。
だが、中学校まで来ると、やはり重苦しい雰囲気が辺りを包んでいた。それはそうだ。既に半数以上の兵士が死に、
今もまだこの瓦礫の下で眠っているのだと思うと、ぞっとせずにはいられない。
太陽もすっかり姿を見せ付けていて、倒壊した建物が朝の輝きに照らされていた。

 蒔田信次は、ノートパソコンを片手に、しっかりとした足取りで、玄関を横切った。

「ただいま戻りました」

「お帰り。よく無事で……とは言えないわね、蒔田君」

『元』職員室へ向かうと、奥の席に彼女、道澤 静は座っていた。その顔はすっかり疲労しきっていて、頬も心なしか
扱けているようだった。やはり、ショックなのだろう。たった一人の生徒に、ここまでの被害を負わされるなんて。

「やはり……あの生徒のことでしょうか」

「全部聴かせて貰ったわよ。随分と話したみたいじゃない、楽しかった?」

「いや。しかし……」

「しかし?」

「初めて、プログラムというものを間近に見た気がしました」

そう言うと、道澤はふふっと笑い、あーあ、とデスクトップに向かい、何かの書類を書き込んでいた。チラチラと覗くと、
生徒死亡記録だった。そうか、この2時間の間に、死んだ生徒がいる筈だ。確かに、爆発音が遠くから聴こえたりもし
た。見ると、他にも見覚えの無い書類が重なっている。

「そうね、みんな必死になってる。私の咄嗟に思いついた、この無茶な特別ルールに、みんな踊らされてる」

「そんなに……戦闘が増えたのですか?」

恐る恐る聞いてみると、黙って紙の束を渡された。数えてみようと思ったが、面倒だったのでやめた。かなり、分厚か
った。

「今しがた死んだ利島さんを含めれば、これで残り半分。やっと折り返し地点に来たわけ」

「たった2時間で、10人もですか……あの、生存権を勝ち取ったのは」

「たったの1人よ、たったの。この分だと、次の放送の時にはもう10人ちょいかもね」

改めて、恐ろしいと思った。
メインモニターの方に顔を向ける。随分と、死亡を示す赤い表示が増えた気がする。ふと、上のほうに目を配り、まだ
あの遭遇した生徒が生き残っているのを確認すると、少しだけほっとした。やはり、自分が偶然とはいえ遭遇した生
徒が、もうこの世からいなくなってしまったらということを考えると、気が重たい。
そういえば、と、自分がわざわざ外へ行ったその結果を報告しなければならない。

「あの、すみません。外を見てきて、こんなものを発見いたしました」

そして、道澤に大事に抱えていたノートパソコンを差し出した。

「えーと、それはあの女子が拠点にしていた材木置き場に放置されていたものです。電源は落ちていますが、恐らく
中には爆弾の製法等のデータが入っていると思われます」

「えぇ、多分そうね。今の状況じゃとても調べられないけれども、後で本島に持ち帰って、詳しく見てみるわ。他には何
かあった?」

「いえ……ただ、爆弾を作った跡らしきものがありました。生憎カメラは持ってなかったので」

「いいわ。それはプログラムが終わった後に調べればいい。とにかく、他の生徒にもうこのパソコンを使われる心配は
無いわけね」

「はい、それは大丈夫かと」

「ありがと、これに免じて秋吉君に話した情報のことは目を瞑るわ」

にや、と道澤が意地悪そうな笑みを浮かべる。なんだぁと思わず赤面してしまったが、とりあえず「ありがとうございま
す」と言った。少し、咬んでしまったが。危ない危ない。

「なんとなく増美が蒔田君のことが気に入ったのが、わかる気がするわ」

唐突にそんなことを言ったりするから驚かされる。

「え、いや……あ、増美……違う、門並教官はそんな……!」

「違うのはそっちでしょ。今は蒔田増美なのよ、しっかりしなさい」

「……からかわないでくださいよ」

そして、お互いに笑みを浮かべる。そして、お互いのショックを癒しあった。
なんだ、最初は硬いイメージだったけれども、実は結構話しやすい人じゃないか。よかった。

「なーに考えてるの?」

「あ……すみません」

これ以上ここにいると何を言われるかわからない。
慌てて席に戻ると、再び先程自分が残した作業の続きに、取り掛かり始めた。




   【残り34人 / 爆破対象者24人】



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