「どうして、お前がいるんだ」 そう言い放った大介の視線は、明らかに私へと注がれていた。 私は何も言い返せない。そう、何故なら悪いのは私だから、大介との約束を破ったのは私だから。 「どういうことだ、沖田」 与木君が、大介に質問をなげかける。だが、大介は首を振って、大きく溜息をついた。 「遠藤……あれだけ言ったのに、どうしてお前は2人でいるんだ」 「沖田、どういうことか説明してくれよ」 「与木、お前は黙ってろ」 沖田は、重く沈む声で、言った。与木君はさらに言い返そうとしたが、私はそれを止めた。駄目だ、これ以上続けば、 戦闘が起こりかねない。現に、2人とも武器を手に持っている。いつ暴走しても、おかしくないのだ。 私は2人を挟むように立った。そうすれば、戦闘は起きないだろうと踏んだ。 「沖田君。ゴメン、私は……」 「誰も信じるなと、言ったはずだ。信じたら、必ずいつか裏切られる、その時のショックがでかくなる。そうだろ?」 「だけど、絶対に裏切られるとは限らないわ」 「それはどうかな。殊更こういう状況の場合、別れは絶対に来るんだ。信頼していた人がクラスメイトに殺されたら、い やあるいはクラスメイトを殺したら、お前……ショックだろ? ましてや、こうして2人でいても、いつかは1人にならなき ゃいけないんだ。その時、どうする? 相手が、自分を殺すかもしれないんだぞ」 「そんなことないっ!!」 「どうしてそう言い切れる? 与木が、そう言ったからか? 僕は絶対に遠藤さんは殺さない、とでも言ったのか? 信じられないな、そんな言葉は。現に、錯乱して自我を忘れ、そして俺に襲い掛かってきた奴だっているんだ。それだ けじゃない。事実、この殺し合いは順調に進んでいる。何の理由も無く、ただただ殺人を繰り返している奴だっている んだ。精神が崩壊しているんだ。それなのに、どうして自分達は大丈夫だと、そう言い切れる?」 ガラガラと、大介に対する思いが、音を立てて崩壊するようだった。 まだ、保美はクラスメイトが殺される瞬間はおろか、死体さえも見たことは無かった。だから、まだいまいち、プログラ ムを実感したわけではない。だけど放送で沢山の友達の名前が呼ばれていて、ああ、やっぱり殺し合いは本当に起 きているのだなと、そう思っていた。 だが、大介は違った。その目でクラスメイトの死体を見て、そして襲われたのだ。 「まさか沖田、お前……」 与木君が、驚いたような顔をしていた。人差し指は、いつの間にか引き金にかかっていた。 大介は、ふんっ、と鼻で笑っていた。鉄棒を、地面に放り出した。ゴンッというくもぐった音が聴こえた。 「1人、殺した。これで襲われたんだ」 「そんな……!」 絶句した。まさか、まさかそんな。大介が、人殺しだなんて。 嘘だ。嘘だ、大介はそんなことをする人じゃない。 「なぁ、遠藤。襲ってきたのは、誰だと思う?」 首を、横に振る。クラスメイトが大介を殺す為に襲い掛かったと言う事実が、まだ呑み込めないでいた。 「あの西村だよ。いきなり、容赦なしだった」 「西村……君?」 風が、吹いた。背の高い草は、カサカサと音を立てていた。 西村鉄男(男子25番)。顔がごついけれど、根はとても優しい人だった。遠足でたまたま班が一緒になったとき、随 分と助けてくれたのを覚えている。以来、気軽に話す仲となった。その名前はプログラムが始まってから忘れてしまっ ていたが、今その名前を言われたら、間違いなく彼はやる気にはなってない、そう、言えた。 なのに、彼は。 「理由はわからない。だけど、殺し合いをする気満々だった。これが、プログラムなんだ。わかったか?」 大介の目は、冷めていた。いつもの冷静でクールな感情とは違う、どちらかというとあの唐津洋介(男子8番)とどこ か似たものを感じることが出来た。 「沖田君……変わった」 「……何処がだ?」 「変わったよ。プログラムが始まって、全部変わっちゃったよ。前の沖田君に……戻って欲しいよ」 「どうして、そう言い切れる?」 「私は……ずっと沖田君のことを見ていたからよ!」 言うべきではなかった言葉。本当は死んでしまう前に、大介に伝えたかった言葉だ。だけど、今は、それは幻。かつ ての沖田大介は、幻影。 与木君が、呆然と立っていた。突然、告白をしてくれた彼。だけど、私は……やっぱり、大介が好きだった。 「……何を言っているんだ」 「好き。沖田君のことが大好き。それを伝えたかったの。だから、あそこで沖田君を待ってたんだよ!」 あの出来事から、既に1日以上が経過している。だけど、心の奥底ではずっと後悔していた。何故、あそこで大介を 呼び止められなかったのか。どうして、言いそびれてしまったのか。 大介は目を見開いて、私を見ていた。 「私じゃ……駄目かな?」 そう言った時だ。 ぱぱぱぱぱ。 突然、大介の足元の草が、散った。 私は何が起きたのかわからず、後ろを振り向いた。そこには、与木君が、マシンガンを構えて立っていた。そのマシン ガンからは、煙が出ている。 「沖田。俺と勝負しろ」 「勝負だと? ふざけるな。どうしてそんなことをしなくちゃならないんだ」 「俺は……遠藤が好きだからだ」 「ふん、そういうことか」 大変なことになってしまった。私のせいで、一気に場の雰囲気が変わってしまった。 どうすればいい? どうすれば、2人を止めることが出来る? 「残念だが興味ない。独りよがりで自分勝手で、大体マシンガンのお前にどうやって勝てっていうんだ?」 その言葉で、与木君の頭が爆発したらしい。銃口を、一気に大介の体へと向けていた。 本能的に、危ないと思った。このままだと、与木君は引き金を引いて、そして。 不思議と、迷いは無かった。 「この野郎ぉぉぉぉっっっ!!」 ぱぱぱぱぱぱ。 銃口から放たれた弾は、真っ直ぐに大介の方へと跳んで行き、そして。 弾は、間に割って入った保美の体へと吸い込まれていった。 【残り34人 / 爆破対象者24人】 Prev / Next / Top |