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 沖田は、脳天をぶち抜かれた与木の死体が崩れ落ちるのを見届けて、ふぅと溜息をついた。
地面に転がっている2つのデイパック。片方には食料や水が入っているだけで、武器は入っていなかった。恐らく、こ
ちらが与木の物なのだろう。もう一つの方には、俎板が入っていた。これは遠藤に支給された武器か。まぁ、遠藤は
完璧にやる気ではなかったので、何を支給されても関係なかっただろうが。
水と食料を自分のデイパックに詰め替えると、もともと自分に支給された武器、文化包丁を一番上に入れなおした。こ
れならもしもの時があっても、一瞬で取り出すことが出来る。
それとも、もうこれは使わないか。自分にはこのマシンガンがある。多分、これ以上に強力な武器は存在しないだろう
と思った。これで、自分の身を守ることは出来る。

さて、どうしようか。
別に積極的に生き残ろうとしているわけではない。今回だって、与木は別に殺さなくても良かったのだ。だけど、心の
奥底で、何処か与木が許せないというものがあったのかもしれない。だから、殺したのかもしれない。
どちらにしろ、愛している遠藤をその手で殺してしまったのだ。あのまま生きていたとしても、どうせいつかは死んでし
まっただろう。早いか遅いかの違いだ。
さて、これから一体、何をしようか。
もともと関係ない話だったが、今は特殊ルールが発動している。となると、自分が狙われる可能性は必然的に高くな
るということだ。どうも面倒なことになりかねない。とりあえず、何処か適当な民家にでも隠れていたほうがいいのかも
しれない。
コンパスをかざし、方角を確認する。ここから一番近くの民家へは、西へ行かなくてはならない。
与木と遠藤の死体を後にしようとして、再び沖田はふぅと溜息をついた。


 誰も、信じられない。
 信じたら、裏切られるだけだ。


どうも俺はクラスメイトを殺すたびに昔の思い出が甦るらしい、と苦笑する。
ああ、実に不愉快だ。どうして、こんなに人生というものはつまらないんだろうか。何が人を信じて、だ。何が大好き、
だ。そんなものはこの腐れ切った世界では通用しない。どうせ恋愛をしたって、一生続くものではない。真にお互いに
利益が生じることなんて、ないのだ。片方が得をすれば、片方は損をする。誰かが幸せになれば、誰かが不幸になる
だけの話だ。みんながみんな、日常を精一杯生きようとして、そして自分自身の幸福を追求して毎日毎日働いている
けれども、けっして幸せになれるなんてことはないのだ。訪れたとしても、それはほんの一瞬。次の瞬間には、不幸
のどん底に叩き落されている事だってある。



 ―― バカ親父!! どうして……どうして借金の保証人なんかになったんだよ?!



幸せだった家庭は、全て崩壊した。家は差し押さえられて、貧相なアパート暮らしになった。
父が親友だと思っていた奴は蒸発し、借用書だけが残った。返済の為に連日パートで働き続けた母は、倒れて今も
入院している。父親も会社をリストラされ、今は何処にいるのかわからない。
バカ正直な奴が損をするのだ。一生懸命築いてきた人生も、たった一度の出来事で全ておじゃんになる可能性だっ
てあるのだ。
それまで、たとえどんなに辛いことがあっても、自分は我慢できた。きっと、この困難を乗り越えれば、いつかきっと幸
せがやってくるのだと信じていたのだから。だけど、わかってしまった。結局それはただの夢、幻想なのだと。
それ以来、人生自体がバカバカしくなった。沖田大介に残された借金は、きっと人生の間には払い切る事なんか出
来なかっただろう。それは後世にまで残され、そして死してなお恨まれるのだ。ああ、バカバカしい。

だから、正直言うと、生き残る気など毛頭なかった。
この人生において最大の不幸であろうプログラムを乗り越えたとしても、その先に待っているのが幸せだとは限らな
い。いや、幸せなんて、本当はないのかもしれない。幸せというのは、本当は。
まぁいい。どちらにしろ、このプログラムが終わったとき、俺の人生も幕を閉じているのだ。それまでは……自分が死
んでしまうまでは、必死に抵抗しよう。必死に、死なないようにしよう。それが、俺が俺で在り続けるという事。

歩き始めて、直後だった。
少し入り組んだ森。その中の茂みの一つに、誰かが、いた。そんな気が、した。

―― ……?!」

本能的に、右へ跳んだ。
茂みの中から、とてつもない殺気を感じたからだ。



 パァン!



着地のことなんて考えていなかった。ただ、右足から転がり込んだのはわかった。咄嗟の判断で受身を取り、そのま
ま一回転しつつ、邪魔になるであろうデイパックを遠くへと放り投げた。
そして、アラバイダ9ミリ・サブマシンガンを構えると、その茂みの中へ向けて、乱射した。



 ぱぱぱぱぱぱぱ。



「うらぁぁぁっっ!!」

咆哮を上げながら、沖田はフルオートで乱射し続けた。その間に、手近な木の幹へと姿を隠す。
カランという音がして、最初のマガジンに入っていた弾が速攻で切れた。途端、再びその拳銃の音が聴こえ、すぐ横
にあった木の幹が弾けた。







 オーケイ、誰だかわからねぇけど、やってやるぜ。
 俺は最期まで抵抗し続ける。殺せるものなら、殺してみろってんだ。







   【残り32人 / 爆破対象者22人】



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