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 快斗は、急いで正樹の下へと駆け寄った。
 また、大切なクラスメイトを殺してしまったことよりも、正樹を想う気持ちの方が強かった。

「遠山、大丈夫か……?!」

 先程自分に向けて刀を投げつけた際に、天宮によって突き刺されていた背中のが抜け落ちたらしく、傍らには、
紅く染め上げられている鎌が、ただそこにあるだけだった。
そして、鎌が抜けると同時に新たに噴出した血液がきっかけとなったのか、正樹は崩れ落ちてしまったのだ。

「秋吉君……」

微かにしか聞き取れない声で、だがそれでも意思を持った声で、正樹は喋った。
その目は、穏やかだった。

「秋吉君……」

「なんだ、遠山」

はっ、はっ、と苦しそうな吐息を上げている正樹。見ているこちらが痛々しかった。
顔色は、先程よりも白くなってしまっている。血が、命が、どんどんと失われていくのだろうか。


「僕、間違ってたんかな……?」


それは、正樹の最期の行動。
人を決して殺さないと決めていた正樹が、人殺しに加担することになった、その行動。

 それは、間違いであったのだろうか。

「悪いけど、それは俺に聞くことじゃないよ、遠山」

遠山の目が、薄くだけ開いた。その奥に灯る瞳の力は、か細い。
正樹は自分と目が合うと、ふぅと大きく息を吐いて、そして微笑んだ。

「やっぱ……そう、なのかな」

「結局さ、正しいとか正しくないとか、最終的に決めるのは自分自身だと思う。まぁ、そりゃあー……周りの意見を参
考にしての話だけどな」

そう。結局、判断は全て自分でするものなのだ。
自分で人生を切り開いていく。その過程で、様々な助言を貰い、そして自分自身で進路を決めていく。
正しいと思った道ならば、その道を行けばいい。もしそれが間違っていたのならば、やり直せばいい。いつだって、人
は助け合うものなのだから。
勿論、そんなものは理想論だ。取り返しの付かない過ちなんてものはいくらでもある。誰とも付き合えずに、家に引き
篭もる者もいる。だけど、結局最終的に解決するのは、他人であり、社会であり、そして、自分自身なのだ。

 だから。

「だからさ、えーと……そのー」

 贈る、言葉。

「ありがと……な。俺は、お前のその行動、間違ってなかったと思うから。だから、安心しろ……な?」

 深く深く、正樹は頷いた。
 穏やかな顔だった。


 苦しかっただろう。
 何度も裏切られて、現実を突きつけられて、悲しかっただろう。

 だけど、それでもお前は、満足そうなんだな。
 優しい、奴なんだな。



 遠山正樹の死に顔は、天宮将太のそれとはまた違う意味で、穏やかだった。



 正々堂々と戦って、結果敗れたけれど満足して死ねる者。
 自分自身と悶々自答して、苦しんだ結果答えが得られて、死ねた者。


 こんな死に方をする奴なんて、他にはそうそういないだろう。
 大抵のクラスメイトは苦しみ、政府を呪い、そして何も出来ないまま、死んでしまっただろう。

 自分だってそうだ。恵美に会うまでは、まだ死ぬわけにはいかないのだ。

 悩んでいる暇などない。
 探さなければならないのだ、彼女を。


 そして……。




 こうして秋吉快斗は、再び歩き始めた。
 最愛の、恵美を探しに。



  男子19番  遠山 正樹  死亡




   【残り15人 / 爆破対象者3人】



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