どうして、みんな殺しあうのだろう? 誰も、望んでいないことなのに。 独裁者は言いました。 本当に望まない政権など、始めから存在しないのだと。 なんかのテレビで、ふと見た記憶。 人には、その根底に眠っている殺人意欲があるのだと。 人は唯一、損得無しに殺しあえる動物なのだと。 わからない。 本能だとか第六感だとか、そんなものはどうでもいい。 要するに、みんなは……心の奥深くでは。 こ の 状 況 を 楽 し ん で る ん だ 。 そうじゃなかったら、誰も殺し合いなんかしない。 誰もが望まないこのプログラムにおいて、誰も殺し合いなんか始めない。 だけど現実はそうじゃない。 こうして、目の前でも、ついこの間まで机を並べていた仲間が、戦っているじゃないか。 今、まさに死にそうなこの体。 どうせ持ってもあと10分もないだろう。 なら。 それなら。 もし、みんなが心の根底で楽しんでいるのなら。 刺激を、求めているのならば。 だったら。 遠山正樹(男子19番)は、力を振り絞って、結局最後の最期まで持ち続けていたデイパックのジッパーを開けた。 その一番奥深くに、自分に支給された『武器』は眠っている。 長かった。決して、こんなものは使わないと決めていたのに。結局、こんな羽目になろうとは。 どちらが正義で、どちらが悪なのか、そんなものはわからない。 どちらも正義を掲げていて、そしてお互いから見てすればそれは悪なのかもしれない。 だからこれは僕の主観で、そして独断で決めさせていただく。 僕は嘘をついた彼が憎い。だけど、彼に、生き残って欲しいんだ。 「秋吉君……」 彼の名を呟く。まるで名前みたいな苗字だ。 そっと、その『武器』に力を籠める。彼ならば、きっとこの『武器』を使いこなすことが出来る、そう信じて。 天宮が秋吉に、唐突にダガーナイフを投げつけた。咄嗟の判断でそれを潜り抜けた秋吉。だが、その彼の目の前に は、天宮が既に立っていた。その左手に持っている7番アイアンを、一瞬だけ油断してしまった秋吉の手元を捻りあ げつつ手に取る天宮。秋吉の顔に狼狽が浮かぶ。アイアンを、とどめといわんばかりに天宮が振り落とそうとした。ま さにその瞬間。 「秋吉君!!」 正樹は、投げた。 それは真っ直ぐに秋吉のほうへと突き進み、そして、その長身の『武器』はすっぽりと秋吉の手に収まった。同時に、 秋吉の顔に笑みが浮かんだ。唇が、『サンキュ』とだけ動いたのを見て、一気に体から力が失せていく。 立つのももう限界か。 正樹は、ゆっくりと地面に仰向けに転がった。 そして、見た。 『それ』は見事な弧を描いていた。 天宮を柄で突き放したあと、さらに執拗に迫ってくる天宮に対して秋吉が放ったその一閃は、まさに鮮やかとしか、言 いようがなかった。隙のない、鍛錬によって得ることの出来たであろうその動き。 秋吉に渡した自分への支給武器、日本刀『菊一文字』は、抜群の切れ味だった。 鮮血を撒きながら、天宮の体が崩れ落ちる。 その顔を血に染めた秋吉は、軽く笑んでいたが、逆に愁いをも帯びていた。 やがて、ピクピクと痙攣していた天宮の体が止まる。秋吉がそれをつま先でひっくり返す。そこに現れた天宮の顔は、 何故か満足げな顔をして目を瞑っていた。もう、二度と動くこともないだろう。 そして、僕も間もなく―― 。 男子2番 天宮 将太 死亡 【残り16人 / 爆破対象者4人】 Prev / Next / Top |