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 これで、5人目。やっと、念願の銃を手に入れられた。
 長かった……本当に長かった。


 長谷美奈子は、喜びを隠せなかった。今まで殺してきた連中の武器といえば、自爆用の爆弾だったり、はたまたち
ゃっちいナイフだったりと散々だったが、これでやっと他のやる気になっている連中とも対等に渡り合えるときた。

 これであたしが優勝できる確率も格段に上がったんだよねぇ。マジうれしい!!

長谷美奈子。人生をリセットする為に、立ち上がった不良。
既に、精神的にはとっくに限界を過ぎていた。度重なる戦闘、幾度もの殺人。いくら不良とはいえ、いくら援助交際な
どで社会の裏の面を見てきたとはいえ、そのショックは大きすぎた。
ただ、天邪鬼な箇所を除けば普通にいる女子中学生だ。もとから好んで殺人を犯すという類の精神障害者なわけで
はないのだから、その精神は簡単にも崩れやすい。

 脆いのだ。
いくら自分で人生をリセットする為とはいえ、体力的にも限界はあった。だから途中で力尽き、民家でも休息を取って
いたのだ。勿論、その束の間の急速が終わった後は、再び緊張の連続が待つ戦場へと勇んで出発し、また2人の生
徒の命を奪っている。
本人でさえ気が付かないこの病。だが、確実にそれは崩壊への道を辿っていった。

美奈子は、精神が強いというわけではなかった。
誰も見ていないところではしょっちゅう泣いていたし、また誰かが居ても常に孤独感を味わっていた美奈子は、既に泣
こうにもその涙は枯れ果てていた。いつしか、泣くというその行為でさえ、忘れてしまうことになった。
肉体が強靭という訳でもない。美奈子は女性として生まれたが故に、決して体力も男子に比べたら豊富ではなかっ
た。辻 正美(女子11番)みたいな(美奈子から見れば)超人でもなかたし、何度も何度も徹夜した体は、明らかに不
健康だった。両親も不干渉だったのでろくな食べ物を食べたことも無かったし、家出をしたときは専ら飯抜きか油気の
多いファーストフード食品店で安い輸入物を食べることも多かった。
何度も腹を下したし、何度も病気になった。流石にそこまでとなると両親は病院にいく診察代くらいは出してくれたけ
れども、容体がよくなると怒るのだ。無駄な金を使わせやがってと。
文句を言おうものならすぐに家を追い出されてしまう。そうなればもう生きていく術など無い。だから、出て行きたいと
いう願望はあっても、それが出来ないのが現状だった。第一、出て行けたとしてもそれで生きていくことなど出来ない
のだ。援助交際でエロ親父どもと渡り合っていくのも、嫌気が差していた。

ああ、この国は狂っている。
あたしみたいな少女が好みの変態は手の付けようもない。少しでも文句を言えば逆ギレし、少しでも嫌な素振りをす
るとすぐに暴力をふるおうとする。一体、どんな教育を受けてきたというのか。
どんだけ甘やかされてきたんだろう。欲しいものがあったら、全て与えられてきたのだろうか。お金さえ出したらなんで
もくれると思っているのだろうか。まぁ、実際そのお金が無かったらあたしなんかとっくに人生終わっていたのだけれ
ども。感謝感謝、と。

愚痴もよく聞かされた。親父の愚痴といえば、女房の不満だとか、会社の上司の嫌なところだとか、大体内容はどれ
も似たり寄ったりだ。聞いてていつも欠伸が出てしまうのだが、これも大事なお客様。お金を稼ぐ為なら仕方ないと割
り切り、真剣に聞いている素振りだけは忘れない。
こんな生活を送るうちに、仮面をかぶるという行為なんて自然と身についてしまった。今の子供達なんか、こんなこと
をしなくたって仮面をかぶっているのもまた事実だ。親の顔を見ては笑い、親の見ていないところでは陰湿ないじめを
繰り返し、挙句の果てに自殺でもされたら、「そんなつもりはなかった」だの、校長だって「いじめがあったなんて気が
付かなかった」だとさ。
まぁ、あたしは不良だったし、担任のミヤビちゃんからも度々指導を受けてたから、もしもあたしが死んだりして、ミヤ
ビが「真面目な子でした」とでも言おうものなら化けて出てやるつもりだった。尤も、もうミヤビはあたし達がプログラム
に選ばれるのに反対したがために政府側に殺されるなんていう呆気ない最期を遂げてしまったのだけれども。まぁ、
正直それはつまらない死に方だけど、嬉しいといえば嬉しかった。そこまでミヤビがあたしのことを思っていたかどう
かはわからないけれども、少なくともこのクラスはプログラムに参加させたくないという気持ちはあったのだろう。どち
らにしろ、賢い選択とは到底思えなかったけれども。

今頃他のクラスの連中は何を思っているんだろうな。
そろそろ昼時で、給食の時間だ。彼等の話題は専らあたし達のことか? 「あいつら、まだ殺しあってるのかな」「うち
らが選ばれなくてよかったね」そこで先生登場。「こら、お前ら。そんなことを言うのはやめなさい。みんなお国のため
に必死に戦っているんだぞ」生徒達は大爆笑。「お国の為だってさ、どうかしてるぜ。ギャハハハ!!」
あー……つまらない。なんとまぁ、この国は腐っているのだろうか。生まれてきたことに感謝しようとか誰かが言って
いたけれども、とてもじゃないけどこれなら生まれてこないほうがマシだった。

 だけど、生まれてきてしまったのだ。
 それなら、生まれたからには生き続けたいと思うのが人間だ。


 だから、別にあたしが生き残ろうとしたって、問題はないはずでしょ?

 リセットする、為なら。


そして、再び美奈子は行動を開始する。
銃というアイテムを手に入れたことによって、彼女のボルテージは再び上がってきていた。


 さて、と。
 次は誰を殺そうか。

 牧野は撃たれてのた打ち回っていたけれども、あたしが間熊を処理している間に逃げてしまった。だけど、あの傷
の様子だとそう長くは持たないだろう。それよりは、間熊と一緒にいたあの女子達を片付けた方が効率がいいかもし
れない。
どっちへ行ったかはわかっている。だって、ずっと見張っていたのだから。



 じゃあ、行動開始。
 しまっていきますかぁ、と。




   【残り14人 / 爆破対象者3人】



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