清楚で大人しくて、クラスメイトの人望も高い優良少女。 粗野で荒々しくて、クラスメイトの人望も低い不良少女。 この二人が手を組む、そんなことが、果たして考え付けたであろうか。 「秋吉とは、一緒じゃなかったのか」 突然、朝見が聞いてきた。恵美ははっとして、慌ててポケットから情報端末機を取り出して、電源を入れる。どうやら まだ、放送からは誰も死者は出ていないようだ。安心していると、さらに朝見は聞いてきた。 「それが、湾条の武器か」 「うん。所有者が今どのエリアにいるのかがわかるようになってて、それから……リアルタイムで死者もわかる」 「なるほど、便利な機械だ。さしずめ、その様子だとまだ誰も死んでいない……かな」 本当に読心術の上手い女だ。恵美は苦笑すると、素直に頷いた。つい数分前までは、このような関係になるとは考 えもしなかったのだが。本当に、驚きだ。他のクラスの人が見たら、なんと思うだろうか。 今、二人が腰掛けている場所は、先程の開けた広場から少しだけ森に入った場所、木々の茂る中、存在していた 大きな石だ。女子としては長身の朝見は、屈んだ方が見つかりにくいと判断したのだろう。実際、周りの茂みの高さ は結構ある。ここなら、外部からは見つかりにくいだろう。問題は、森の内部からは比較的見つかりやすいという点だ が、残り人数から考えても、まず大丈夫だろうと結論付けた。 「秋吉とは、出発地点で合流したんだろう」 「……確かに、あそこであたしは快斗と合流したわ」 「やっぱりね。うち、その直後に出発だったじゃん。だから全力で走ったら追いつけるかもしれないと思って、必死にな って駆けたんよ。でも、二人とももう消えてた」 ああ、そういえばそうだ。女子34番からの出発。次は男子1番の快斗が出発して、次いで女子1番の朝見。彼女は 自分達に追いつこうと、つまり合流しようと考えていたのか。 「どうして、あたし達と合流しようって考えてたの? いや……そもそもあたし達、言っちゃ悪いんだけど、朝見さんが 危険だって判断して、急いであの場所から離れたんだよ?」 「あー……やっぱしそうか。うち、あんま評判良くないからね。援交とかで停学になったし、長谷とか、成田とかと仲良 かったしね」 「あ……やっぱ傷ついた? ごめんね」 「うんにゃ、構わないさ。慣れてるし」 ふと、随分と最初の頃を思い出した。確か、快斗と出発して、走って、とりあえず茂みに隠れたときの話だ。突然現れ た『野良犬』の日高成二(男子28番)。問題児だからと最初は敵対視してたけど、実際に話してみると、案外いい奴 だった。その彼は、もういない。 朝見も同じだ。問題児だけど、決して悪い奴じゃない。蓋を開けてみれば、根はいい奴だ。 「朝見さんって……いい人だね」 ふと、そんなことを口にしてみた。朝見の顔が赤くなる。 「ば……バカいえ! うちはそんないい奴じゃないよっ!」 「そんなことないよ。しっかりと、何をすればいいのかよく理解してる。ねぇ、朝見さんはやる気じゃないんでしょ?」 「そりゃあ……まぁな。積極的に殺しまわろうとか、そういうことは考えてない」 「じゃあ、やっぱり優しいよ。……見直した」 視線を逸らして会話を続ける朝見。さらに一押しすると、髪をかきむしった。余程褒められ慣れていないのだろう。恥 ずかしくてたまらないという感じだった。 「あーもう! 話がズレ過ぎ! 湾条、それで秋吉はどうしたんだ?!」 「……わからないの」 無理矢理話題を戻されて、本題へと帰ってきた。とりあえず、今の状況を説明しなければならなかった。 「……わからない?」 「うん。特別ルールが始まる前にね、友部君に襲われて、それで成り行きでバラバラになっちゃって。今も、必死にな って探していたんだ」 「あー……そうなのか。別行動ってわけじゃなくて、はぐれたのか。まぁ、あの秋吉がわざわざ別行動をとろうなんて 言うわけないしな」 沈黙。 最初に動いたのは、恵美。朝見の顔を、じっと見る。 「ねぇ、朝見さん」 「何だよ?」 「一緒に、快斗を探してくれない?」 「秋吉を? あー……どうしよっかな。うち、完全に秋吉にやる気だって思われてるだろうし」 「……なんで?」 「いや、ほら。うちが智佳を殺す瞬間を、あいつに見られたんだよ」 瞬間、電撃が体を直撃した。朝見の、その思いがけない発言によって。 そう、朝見は、一度だけだが、快斗と遭遇しているのだ。 「快斗に……会ったの? いつ? 何処で?!」 詰め寄ろうとして、両手で静止を受ける。中腰になったが、再び座ることとなる。 「まぁ待て待て。えっとな、智佳と一緒に居たのが、えーと……ここ、G=6だ。今うちらがいるのがG=3だから、大体 直線距離で1km弱だな」 地図を取り出して説明する朝見。1km……結構距離がある。だが、この島の広さに比べたらそうでもない。それに、 まだこの辺りは禁止エリアが少ない方だ。 「時間は大体今から1時間前だから、まだこの辺にいると見ていいんじゃないか」 「ホント?」 「嘘ついてどうする。事実だよ。……仕方ないな、うちも行くよ。あんたがいれば秋吉も攻撃してこないだろう」 「ホント?!」 「だから嘘ついてどうするって。心配性だな、湾条は」 「……ありがとう」 そして、突然朝見が立ち上がる。つられて、恵美も立ち上がった。足の痛みは、もう、ない。 「ほら、さっさと行くよ。もう時間がないんだろ」 その顔は、笑っていた。悪意が微塵も感じられない、笑み。 本当に、根はいい奴なんだと、改めて再確認した。 午後一時、二人の女子が、始動した。 【残り11人】 PREV / TOP / NEXT |