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 ぱぱぱ、ぱぱぱぱ。


「あー……もう、しつこい奴だね」

 背後から、絶え間なくマシンガンの音が聴こえる。一体どれ程の弾を装着していたのだろう。唐津は、弾切れなん
て全く考えていないようだった。
恵美は、朝見に手を引っ張られながらも、懸命に走り続けていた。関本 茂(男子15番)と対峙した時に捻挫してし
まった足は、もう痛みを発していない。精神的な何かが作用しているのかもしれない。とにかく、こんなに走れるとは
思ってもいなかった。
一方朝見はというと、先程まで歩いていた森の中を器用にくねくねと潜り抜けていく。どれだけこの森の中に居たの
だろうか。全く迷うこともなく、また行き止まりに遭遇することもなく、マシンガン相手の唐津から逃げていた。
思えば唐津はマシンガン以外にも武器を持っているのだろう。それは多分重たいであろうし、そのようなものを持ちな
がら全速力で走ることが出来るとは到底考えられない。それに比べてあたし達はほぼ手ぶらのようなものだ。あたし
は今は捻挫していて完全体というわけではないけれども、走力には自信があった。朝見も、クラス一の俊足である
本怜奈(女子32番)には劣るけれど、かなり身体的能力は高い部類だったと思う。身長がある分足も長くて、今はあ
たしを庇っているからある程度抑えられたスピードだけれども、本気を出したらどのくらい速いのかは、想像できなか
った。しかも方向感覚が備わっている。

 大丈夫、逃げられる。

マシンガンの弾が途切れた。それを機に、一瞬だけ後ろを振り返る。
唐津は大分後ろを走っていた。あと少しで、振り切ることが出来そうな距離まできている。しかも、どうやら弾切れだ。
やはり走りながらだとどうしても標準がぶれる。しかも森の中だから遮蔽物も多い。あたしも朝見も、奇跡的に弾は一
発も命中していない。

「湾条、あいつは?」

同じく弾切れに気付いたのだろう。朝見が、振り返ることもなく聞いてきた。

「まだ安心できる距離じゃないけど、大分後ろにいる。しかも、今は弾切れ」

「油断すんなよ。まだ拳銃を持ってるかもしんないだろ」

朝見に言われて、ようやく気がついた。確かに、マシンガンは弾切れかもしれない。だけど、唐津は他にも拳銃を持っ
ている可能性があったのだ。安心してはいけない。意外にも、朝見はしっかりとしていた。

「湾条。会ったばかりですまない……お別れだ」

振り返ろうとして、再び朝見の声がする。その内容には、一瞬我が耳を疑った。

「お別れ……?」

「お前はその辺の茂みに隠れてろ。うちが、あいつをひきつけておく」

「そんな?! 何で何で?!」

「あんた、やっぱり足、駄目だ。遅いよ。このままじゃすぐにスタミナ切れで追いつかれて、どっちも死ぬ」

足。そう、捻挫している右足。
意識すると、急に重たく感じてきた。この足枷は、徐々に脅威を増しつつある。

「……そう、わかった」

だから、ここで駄々をこねてもしょうがない。ここで別れるのは、あたし達のためなのだ。

「次のところを右に曲がる。そこで、唐津から一瞬だけ消えた隙に茂みの中に飛び込め。うちは、しばらくそのまま直
 進して、あいつに姿を確認させる。そうすれば、あいつはうちを追うだろう」

「……死ぬかもしれないよ」

「平気だって。……うちは死なない、どんなことをしてでも、生き延びるさ」

次の瞬間、急に体が右に折れた。そして、思い切り朝見に突き飛ばされる。
激痛が右足に走る。だが、体を支えることも出来ずに、茂みの中へと転がり込んだ。ナイスコントロール……でも、非
常に痛い。朝見の足音が、ぐんぐんと遠ざかる。そして、別方向からの足音が、ぐんぐんと近付いてくる。そして、すぐ
近くで勢いよく右に折れて、そして足音は遠ざかる。
唐津は、あたしに気付くこともなく、通過したのだ。そう思った瞬間、遠くの方で、一発の銃声が鳴り響く。全身があわ
立った。唐津が、朝見を撃ったのだ。やはり、唐津は他にも拳銃を持っていたのだ。きっと、射程圏内に捕らえてから
単発銃は撃つつもりだったのだ。

 やはり唐津は冷静だ。冷酷な、悪魔だ。

そして、そのまま十分ほどが経過する。辺りは不自然に静かで、鳥のさえずりも聴こえない。
そっと身を上げる。辺りを見回す。誰の気配も、感じない。

「朝見さん……」

彼女の逃げた方向へ向けて、そっと呟く。
ふと、ここは何処なのだろうと思い、ポケットから端末を取り出した。





 だが、端末は液晶が割れていて、電源を入れても、もう全く反応しなかった。





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